あの子の好きな子


部活動が休みになった試験1週間前、私は久しぶりに準備室に足を運んだ。篠田先生はそこにいたけど、すぐに追い返されてしまった。

「さすがに1週間前はだめだよ。職員室も不要な立ち入り禁止だろう。今日は帰りなさい」

おいでと言ってくれたのに。寂しいと言ってくれたのに。私も来るのが遅すぎたけど、ぴしゃりとそう言われて、気持ちが急激に落ち込んだ。あの微妙な雰囲気を醸し出した日から、教室以外で顔を合わせるのは初めてだったから、期待と不安が入り混じりながらドキドキした気持ちで扉を開けたのに。私の気持ちが高まっているときは、だいたい肩すかしを食らう。

結局、3学期が終わるまで、篠田先生と話したのはそれが最後になった。
春休みはテニス部と野球部と友達の誘いごとでものの見事にスケジュールが埋まり、なかなか準備室には行けなかった。行ける日には先生がいなかったりして、とことんタイミングが悪かった。タイミングが悪いというのは、もうほとんどなにもかもがダメなことに等しい。私はひたすら新学期を待つしかなかった。新学期になれば、学校で会えるだけじゃない。クラス替えという、夢と希望に溢れた一大イベントが待っているのだ。もし、もしも篠田先生が担任のクラスになれたら、理科の授業がない日でも毎日必ず篠田先生に会える。同じ教室に、毎日通える。クラスメイトが誰であってもいいから、篠田先生のクラスがいいと、あの頃毎晩祈っていた。空模様は関係ないのに、てるてる坊主まで作って願掛けをしていた。



「ねえ、私達ってさ、ずうっと一緒だけど、クラスが同じになったことってないんだよね」
「ああ、そうだな」

始業式の朝、偶然雄也と会った。同じクラスになるといいねなんて軽い会話を交わしながら、実は私はかなり緊張していた。クラス発表が気になって仕方なかった。雄也はたぶんそれに気付いていて、貼り出されたクラス表を見るとき、私のクラスをすぐに教えてくれた。背が高いからよく見えるらしい。私のクラスは、2年E組。先生は去年1年C組の担任だったから、なんとなくそのまま2Cの担任になる気がして、E組と聞いて私はかなり落胆した。担任発表は始業式の最後で行われるから、それまで希望は捨てなかったけど、C組の発表で早々に篠田先生の名前が呼ばれて、私はすっかり気を抜かれた。悔しいのは、雄也がC組だっていうこと。私のてるてる坊主を馬鹿にしていた雄也が、私が欲しかったポジションを手に入れているなんてずるいと思った。

ああ、祈りは届かなかったけど。
運は別のところにとっておこう、そう考えることにした。
春は何かが起こる気がする。


< 168 / 197 >

この作品をシェア

pagetop