あの子の好きな子

願い事



【願い事】




登校初日、新しいクラスに馴染めるように奮闘しなければいけないのに、運命のくじびきではずれを引いた私はまだ気が抜けていた。篠田先生のクラスが雰囲気のいいクラスだったらいいな、とぼんやり考えた。それから、雄也にもいい友達ができて、もっと言うと彼女とかできて、そしたらひやかしてあげたいな、と考えていた。

「ねえねえ、このクラス、なんか顔面偏差値高いよね?」
「ん?ああ、うん」

テニス部の友達が話しかけてきた。クラスメイトひとりひとりの顔なんてろくに見ていなかったから、適当な返事になってしまって怒られた。

「あんたも偏差値上げてるからね。もお、遥香ってモテるくせになんでやる気ないかなあ」
「別にモテないよ」
「ねえ、本当に去年1年間で何もなかったの?」
「ないかなあ」

色々あったけど話せるようなことは何もなかった。会長とのことぐらいだけど、それはみんな暗に知っていた。球技大会前はあれだけひやかしていたのに、あのあと普段通りの関係に戻った私達を見て何かを察したのか、会長が言ったのかはわからないけど、からかいの言葉はあっという間になくなった。そういうものなんだなあと思った。

「テニス部もたくさん入るといいね。あっ増えすぎるのも考えものか」
「そうだね、適度に入るといいね」

軟式野球部は、3月の最後の活動日の日に、すっぱりとやめてきた。というか、池ちゃんが気を遣ってくれて、正式に送り出してくれた。だから今日からまた、テニス部以外の日はあの場所に行ける。私はその日、1日中考えていた。今日から行ってもいいかなあ。今日みたいな特別な日はきっと忙しいし、だめかなあ。


< 169 / 197 >

この作品をシェア

pagetop