あの子の好きな子

奇跡の幸福




【奇跡の幸福】



先生、婚約するの?

その言葉を発してから、やけに時間が長く感じられた。先生は私の言葉を聞いて、一度二度まばたきをした。

「婚約・・・?」

そのあと上の方を向いて少し考えて、何秒たっただろう、数秒の間だったと思うけど、私にはそれがすごく長く感じられた。

「・・・ああ。わかった。それ、間違いだよ」
「え?」

先生はなにか意を解したようで、すっきりした表情になった。私はたぶんまぬけ面で、先生の顔を見上げたと思う。

「最近婚約したのは、代田先生。知らないかな、1年生の担任してて、古典の先生なんだけど」
「シロタ先生・・・?」
「そう、篠田じゃなくて代田。その先生のことだと思うけど」

代田先生。授業が当たったことがないから知らなかった。でも1年生の噂話だし、1年生の担任をしているならかなり可能性としては高い。それより、問題は代田先生が婚約しているかしてないかじゃない。篠田先生がしているのかが問題だった。

「・・・じゃ、先生は、しないの・・・?結婚」
「うーん、予定はないなあ」
「・・・・・・・・・」

うそ。なんだ。やっぱり。色々な言葉が頭を飛び交って、最後には「良かった」だけが残った。篠田先生は、誰のものでもない。押しつぶされてしまいそうに襲っていた不安が、ふっと一瞬で消えてなくなった。



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