あの子の好きな子



「あの、もし・・・、もし、好きな人に好きな人がいたら、広瀬くん、どうする?」

勇気を出して言えたのは、結局当たり障りのないことだった。広瀬くんは、「ふーん」とか「知らない」とか、素っ気ない適当な答えを返すだろうと思った。だけど、広瀬くんはしばらくの間黙ったままで、言葉を探しているように見えた。

「・・・それは、仕方ないだろ」

少しして、ぽつりと広瀬くんはつぶやいた。おそるおそる広瀬くんの顔を見たら、さっきまでの私みたいに、自分の机を見つめていた。

「そればっかりは、仕方ないし、どうにもしないよ」

広瀬くんの表情は、喜怒哀楽のどれでもなくて、ただ諦めたような顔をしていた。広瀬くんの声色も、何の色も持っていなくて、ただ淡々と喋っていた。その何も感じていない広瀬くんの様子が妙にリアルで、私の予想は当たっているような気がして仕方なかった。

広瀬くんは、きっと切ない想いを抱えてる。

その断片は、久保さんを見送ったままぼんやりしていたあの日の広瀬くんの表情に、諦めた様子の今の口調に、もっとたくさん毎日の仕草の中に隠れていた。彼女じゃないと知ってからもちょくちょく私を不安にさせたのは、そういう小さな種だったんだ、きっと。

「・・・・・・広瀬くん、久保さんが好き?」

今までどうしても聞けなかったことが、なぜだかその時あっさりと聞けた。自分の口調が、今までのどの瞬間よりも落ち着いていて自分で驚いた。広瀬くんも、いつもみたいに迷惑そうな顔をして「はあ?」とか言ったり、すぐに否定したりする様子もなくて、私と同じように落ち着いていた。広瀬くんはそこまで間をあけることなく、答えた。

「好きだよ」

心臓が一度ぎゅうっとしたけど、そのおかげで激しい鼓動の方はおさまった。

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