あの子の好きな子

とおせんぼ




【とおせんぼ】





次の日の月曜日。イメトレの甲斐あってか、私は朝の出欠取りの時間も、篠田先生に名前を呼ばれて声が裏返ることなく返事ができた。例え広瀬くん相手でも、教室であの話題を出すことはしなかったし、大丈夫できると思った。

「森崎さん、今日、一緒にお昼食べてくれる?」

お昼休みだった。久保さんがC組の教室にやって来て、私の机の前まで来て言った。その声はいつもの久保さんより少しか細くて、どこか申し訳なさそうだった。私は緊張して、うんとだけ言うとすぐに席を立ち上がった。

久保さんは、習熟度別授業で使う中教室に私を連れて来た。ここではたまにどこかの部活が集まってミーティングをしているけど、今日は誰も使っていなかった。狭いとはいえ教室の中。二人だけで向き合ってお弁当を食べるのは少し不自然ではあったけど、聞かれてはいけない話をするからだろうと思った。

「森崎さん、本当にごめんね。驚かせちゃったよね」

久保さんは一番最初にそう言った。私は無言でぶるぶると首を振って、よせばいいのに焦ってからあげを丸ごと口につっこんだ。久保さんは、箸を持って止まったまま話し始めた。

「・・・学校の外で会うのはダメっていつも言われてるの。昨日は、私がわがまま言って・・・でもやっぱりダメだったよね、ごめん」
「う、ううん」
「森崎さん、雄也がああいう文明展みたいなの好きなこと知ってるでしょ?」
「え?あ、うん」
「私も、雄也がいるかもってちらっとは思ったんだ。でもいたとしても一人だと思って・・・雄也は知ってるから、万が一会っても大丈夫って思っちゃった・・・」

そこまで言って、久保さんはやっと厚焼き卵を一口食べた。少しの間、もぐもぐという小さな音だけが狭い教室に響いた。久保さんは自分のお弁当を見つめたまま、また話を始めた。

「当たり前だけど、最初に私が一方的に好きになったの」

私は口に入れていたうずらの卵を、ごくんと音をたてて飲み込んだ。




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