あの子の好きな子



「それで、もう吹っ切れたみたいにアタックしまくって・・・1年かかっちゃった、先生も同じ気持ちにさせるのに」

久保さんは少し笑ってそう言ったけど、凄いことを1年でやったんだ。私だって広瀬くんにいつ同じ気持ちになってもらえるかもわからないけど、一生ダメな可能性だってあるけど、久保さんはとても大きな壁を壊して、好きな人を手に入れることができた。

「・・・なんで篠田先生なんか、って思った?」
「えっ」
「そりゃ、思うよね。篠田先生ってなんかださいし。でも私にとっては、いいところがいっぱいあってね」

うん、わかるよ。
周りからの評判があまりよろしくないのは広瀬くんだって一緒だ。私だって話す前は怖いと思っていた。私がそれまで知らなかった広瀬くんの顔をたくさん知ってどんどん好きになっていったように、久保さんにも久保さんの大切な思い出がいっぱいあるんだろう。

「今年のクラス替えでさ。雄也がうらやましかったな、篠田先生のクラスになれて」
「あ・・・そっか」
「その頃はまだ、片想いだったから。担任になったら、毎日同じ教室にいられるなんて最高って思ってた。今も、C組の子がちょっとうらやましいけどね」

そんなこと、この学校中で思っているのは久保さんだけだろう。いやもしかしたら他にもいるかもしれないけど。

「あの・・・私、絶対誰にも言わないから・・・」

久保さんが、求めているであろう言葉を言った。先生の話をする久保さんはとても幸せそうで、心から先生が大好きなんだと私にもわかった。でも二人の関係は普通のものよりも脆くて危険で、会える時間も少なくて、そういうところから来るちょっとの不安も久保さんから感じてとれた。だから私は、大丈夫、広瀬くんに続く秘密の番人になれるよ、と伝えてあげたかった。

「うん・・・ありがとう。迷惑かけてごめん」
「そんな、全然、なんともないよ」
「・・・ねえ、森崎さんって、雄也の彼女?」

ドカンと、爆弾を投げ込まれた。彼女?彼女?なんて素敵な響きなんだろう。森崎さんって、彼女?ああ、もし本当にそうだったら、この場で「あ、うん、そうだけど」とかって答えられたら、どんなに幸せなんだろう。「そうだけど、それが何か?」とか言って!

「めっそうもないです!」

現実は切ない。


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