あの子の好きな子



「そうなんだ・・・前から気になってたんだけど。昨日ばったり会ったでしょ、それでやっぱり付き合ってるんだって思って」
「ううん、たまたま・・・私が勝手に広瀬くんの趣味について行っただけで・・・」
「でも二人、じゃあ帰るって行って手繋いで帰って行ったし」
「つな、繋いでない繋いでない!広瀬くんが私のこと引っ張ってただけ!綱引きみたいなもの!」
「綱引き・・・?」

久保さんはくすくす笑った。ちゃんと手を口のあたりに持っていくのがかわいらしい。先生を落とした人。広瀬くんの好きな人。

「じゃあ、これから彼女になるのかな」

久保さんはきらきらに輝いた笑顔でそう言った。本当にそうなってくれれば、嬉しいんだけど。広瀬くんの心は今、残念ながらあなたに向いたままなので・・・。

「なれるかなあ」

気持ちがしょげてしまった私は、そんな情けない返事を返すだけだった。でもその言葉を聞いた久保さんは、ぱっと顔を上げて依然きらきらした表情で私を見た。

「森崎さんは、雄也のことが好きなんだね」

ボカン。また爆弾を投げ込まれた。
その事実を私は重々自覚しているんだけれども、こうやって音声にして発表したこともないし、ましてやそれが第三者の口からとなると、なにかこう体中の血液がぞわぞわと逆流したような緊張を覚えた。

「あの・・・うんと・・・うう・・・」
「ふふ、森崎さんてかわいい」
「うえ?」
「ごめん、笑っちゃった。私応援する。雄也にも、ひっそり推しておくから、森崎さん」
「あやややそんなそんな・・・ごめん・・・」

頭から湯気が出て、私の体からはフシュ~という効果音でも出ているのではと思った。照れ臭くてウインナーがのどを通らない。久保さんはニコニコしたまましばらく私を眺めていた。チャイムの時間が近付くと、久保さんは最後に何度もお礼を言って、もう一度だけごめんねと言った。


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