あの子の好きな子
「どうしたの先輩」
「き・・・気のせいだと思うよ」
「何?」
「辻くんは・・・か、加奈ちゃんとかの方が合ってる、絶対」
まっすぐに私を見つめてくる辻くんに目を合わせられなくて、きょろきょろと視線を泳がせながらそう言った。辻くんの顔は見えないけど、きっと真顔だと思う。
「・・・どうして」
「だって、加奈ちゃんとはずっと前から仲良しでしょ、同じ学年だし、気も合うだろうし・・・ほら加奈ちゃんかわいいし、いい子だし・・・」
「それがなんなの?」
「え・・・」
やっと辻くんと目を合わせた。辻くんは思った通りの、色を持たない表情をしていた。私に振りほどかれた手をそのままの形で机の上に置いたまま、瞳だけがじっと私を捉えている。
「ずっと前から知ってて、仲がいい奴のこと、絶対好きにならなきゃいけないの?」
「・・・そういうわけじゃないけど・・・」
「加奈と会うより前に先輩に出会ってなきゃ、先輩のこと好きになっちゃいけないの?」
「そんなこと・・・ないけど・・・でも加奈ちゃんとの方が、その分お互いのことわかってるでしょ?」
「先輩さ。加奈に後ろめたくて、そんなこと言うんでしょ?」
体がびくんとした。辻くんはいつも私の中の痛いところをまっすぐに突いてくる。
「加奈は俺のこと好きで、その俺が、先輩のこと好きとか言ったから。加奈への申し訳の気持ちで、そんなこと言うんでしょ?」
「やめてよ!・・・そんなこと言わないで・・・」
「俺が加奈と落ち着けば、先輩は悪者にならないし、一番いいもんね」
加奈ちゃんの笑顔が頭の中に浮かんでは消えた。辻くんの言っていることは、大体図星だ。だってそうじゃない。仕方ないじゃない。
「ついでに聞くけどさ。あゆみ先輩の好きな奴って、あゆみ先輩にとって一番近い存在なわけ?」
「え・・・?」
「だってさ。ずっと前から知ってて、一番近い存在の奴の方がいいって先輩今言ったでしょ」
辻くんには加奈ちゃんがいいと思って、確かにそう言った。加奈ちゃんはもうずっと前から辻くんのことを好きみたいだし、入学当時から仲がいい二人の方が、ずっとお似合いだと思った。