あの子の好きな子
「それからさ。そいつにとって、ずっと前から知ってる一番近い存在って、あゆみ先輩なの?」
私はここで、はっと気付いた。これから辻くんは、私が一番言われたくないことを言う。
「あゆみ先輩の話だったらさ。そいつが選ぶべきなのは、ずっと前から知ってる、一番近い存在の女の子でしょ。それが自分だって、先輩思う?」
どうして、こんなにピンポイントで私の辛いところを叩くんだろう。考えるまでもなく、広瀬くんにとって一番よく知った一番近い存在の女の子は久保さんただ一人だ。現実、広瀬くんはずっと久保さんのことが好きで、ずっと久保さんの幸せを見守ってる。
「・・・やめてよ・・・」
「違うでしょ。だから、俺の気持ち否定するようなこと、言わないでよ」
「・・・・・・だって・・・」
「なに、先輩」
「だって、信じられないよ!辻くんなんて、こんな風に、私が苦しいことばっかりするじゃん!そんなので、好きだなんて言われても、わかんないよ、もう・・・!」
ここのところ、広瀬くんと一緒に帰ったり、肉まんを食べたり、日曜日に出かけたり、ファミレスに行ったり。嬉しいことが続いていたから、少し調子に乗っていた。久しぶりに痛い気持ちを味わって、思わず涙をこぼしてしまった。辻くんの前で泣きたくなかった。
「支配欲だよ」
「・・・え・・・?」
「先輩見てると、欲しくなる。俺の手で、連れ回したいし、困らせたいし、泣かせてみたい」
「・・・なに、それ・・・」
辻くんは、初めて笑った。でもそれはいつもの無邪気な笑顔じゃなくて、にやりとした小悪魔のような笑顔だった。
「加奈はダメだよ。俺に従順だもん。俺、先輩みたいに人のことかわしてばっかな奴のこと、惑わせてみたいんだよね」
何を言っているんだろう。向かいに座っていた辻くんが立ちあがってこっちに近付いてくる。
「そういうの、わかんない?」
「・・・何言ってるか・・・わかんないよ」
「怯えてる?先輩」
辻くんが楽しそうに笑った。さっきまでの無表情は何だったんだろう。辻くんが楽しそうにすればするほど、私はひやりと恐ろしい気分になった。
「あゆみ先輩」
すぐ隣に来た辻くんが、もう一度私の手をぎゅっと掴んだ。私の肩はびくっと大きく動いて、少し後ずさりをした。