あの子の好きな子


「・・・プラネタリウム・・・?」
「ちょうど始まるみたいだ。急ごう」

私がぼんやりしている間に先生はチケットを買ってくれて、上映席まで連れて行ってくれた。平日の客入りはそんなに多くなくて、私と先生の両隣りには誰もいなかった。視界が暗くなって、次に一面に現れたのは、満点の星空。お砂糖の粒みたいな星々が、視界いっぱいに広がった。

「夏の夜空には、明るく輝く星が多くあります・・・」

アナウンスが始まった。夏の星座の紹介だった。次に、太陽系の惑星の紹介と、地球の誕生秘話。最後にもう一度、夏の夜空の星座を楽しんで、プログラムが終わった。テーブルにこぼした砂糖の粒のようにたくさんの星があって、その小さな一粒、青い砂糖に私は生きている。数え切れない星に、気が遠くなるくらい広大な宇宙のスケールに、私に重くのしかかっていた心のもやもやが体から蒸発していった気がした。

「面白かったなあ」
「・・・・・・」
「どうした?久保。つまんなかったか?」
「ううん。すごく、面白かったです」

満点の夜空から、本物の夏の夜空に帰って、先生の顔を見た。先生は、私のために星を見せてくれた。宇宙を見せてくれた。荷物が抱えきれなくて、パンクしてしまった私を見て、この場所に連れてきてくれたんだね。





「ねえ、先生・・・」
「ん?」

ビルを出て、来た道を先生と一緒に歩いた。夏の夜の生温かい風が頬に当たっていた。私は泣いたせいでのどが熱くて、頬がほてっていた。

「私が前にした話、覚えててくれたんですか?」
「何の話?」
「私が、星好きって言ったこと。私の、元気が出る宇宙の話」
「ああ、覚えてるよ。なかなか面白い話だったからなあ」

先生は目を糸みたいにして笑った。私は、少しだけ先生に近付いて歩いた。

「・・・先生、あのね」
「ん?」
「私、学校で、ちょっと嫌なことがあって。友達に誤解されて、嫌われちゃって」
「うん、そうか。大変だったな」
「・・・でも、私は正しいことしかしてないと思ってるし、わかってくれない友達を軽蔑してる自分もいるんです。自分のこういうところ、昔から嫌いなんだけど」

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