あの子の好きな子
テストと待ちぶせ
【テストと待ちぶせ】
思ったよりも、恥ずかしいとか後ろめたいとか、そういった感情は生まれてこなかった。あれから学校で先生の授業を受けていても、私は真っすぐに先生の顔を見て話を聞いていたし、前と何も変わらずに放課後は地学準備室に通った。
「うーん。先生、期末はどんな問題が出ますか?」
「そんなの教えられないよ」
「参ったなあ・・・」
「久保はこうやっていつも勉強しに来てるんだから大丈夫だよ」
先生のその言葉に私は何も答えなかった。私はここに勉強をしに来ているわけではない。先生は本気で私が勉強をしに来ていると思っているのか、ポーズなのか、どちらだろうと考えていた。
あれから私も先生も何もなかったかのようにいつも通りに過ごしていたけど、私はあの告白をなかったことにするつもりはなかった。先生もそれはわかっていたと思う。私は以前より、先生への好意を表す言動が増えたから。
「先生、いいこと思いついた」
「何?」
「もし満点とったら、またなにかごほうびくれますか?」
先生の目をじいっと見つめる。先生はごほうびと言って私に星を見せてくれた。もう一度、先生のごほうびが欲しい。見つめられた先生はあからさまに困って視線を泳がせた。
「先生、お願い!百点満点だったらでいいから!99点だったら、諦めるから」
手を合わせて前のめりでお願いした。先生はそれに折れて、渋々「百点満点なら」と答えた。
「やった。じゃあ、私がごほうび考えてもいいですか?」
「ああ。うん、いいよ。何して欲しい」
「えっと・・・、それじゃあ・・・」
私が先生にして欲しいこと。先生に見せて欲しいもの。今度は満点の星空じゃなくて、もっと先生のことを見たい。チョークを置いて、教科書をたたんで、この準備室を出たあとの、先生が知りたい。あの街が家までの通り道と言っていた。あのあと先生は、どんな街へ帰って行くんだろう。
「先生のうちに・・・行きたい」
「え?」