まだ、君を愛してる.doc
「一条さん、それ取ってくれないか?」
愛花は新卒の時に小さな会社に入った。新卒だから、右も左もわからない。だから、優しく指導してくれる柏に、いつも素直に従っていた。
「このファイルですか?」
「あぁ、そう。ありがとう。」
青いA4のファイルを渡す。それを受け取り、柏は笑った。
「あ、いえ、いいんです。私、まだこんな事しか出来ないし・・・」
「そんな事はないさ。この一カ月で随分と使えるようになったよ。だから、仕事もはかどる。」
「本当ですか?」
「あぁ、本当さ。」
正直言って、愛花は役に立っていなかった。けど、仕事ははかどっている。理由は簡単だ。柏は愛花の事が好きだった。男は好きな女にはいい所を見せたい。単純な生き物ならではの効果だ。おそらく、明確な計測はしていないけど、愛花が来る前の二倍くらいははかどっていたはずだ。
「ありがとうございますっ。」
柏の本当の気持ちなど、露ほども知らず、愛花は素直にお辞儀した。素直なのは愛花の取り柄だ。
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