君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
一匹狼と恋愛

菅原悠里の初恋

――どうしてこの人は、こんなに優しいんだろう?

 それは入学式が終わった直後のこと。見知らぬ上級生二人組が僕の前に現れた。
「菅原悠里くんね? あなた、文学部に入らない?」
 そう言った女子生徒は竹内晶先輩。生徒会長を務める三年生だ。入学式で祝辞を述べていたのを覚えている。
「文学部?!」
「晶、あまりに唐突すぎる誘いじゃないかな?」
 隣で小さな笑い声をあげているのは名札によると川越将志先輩。見るからに怪しげな風貌だ。
「そうねぇ。一度見学に来てもらったほうがいいかも。放課後に図書室にいらっしゃい」
 僕が返事をする前に、二人は走り去ってしまった。僕は呆然と廊下に立ち尽くした。
「おい、菅原。ホームルーム始めるぞ」
「はいっ」

放課後。僕は廊下をさまよっていた。図書室の位置がさっぱりわからないのだ。昔から方向音痴で道に迷うことはよくあるが、まさか学校内で迷うことになるとは。途方にくれていたとき、後ろから声がした。
「なにしてるの?」
 振り返ると、そこに立っていたのはひとりの男子生徒。こちらを鋭く睨みつけている。一気に汗が吹き出した。
「あ、あの、図書室に行きたいんですけど」
「図書室? ああ。今から行くところだから、一緒に行こうか」
 男子生徒はやや表情を緩めて近づいてきた。名札には渡会夏樹とある。どうやら二年生のようだ。
「ありがとうございます」
「別に、これから部活だから」
 渡会先輩はそう言うと、図書館までの道を案内してくれた。先程の鋭い視線を思い出すと、こちらからはなんとなく話しかけづらい。しばらく無言状態が続いていたが、特別教室の並ぶエリアに入ると、渡会先輩の方から口を開いた。
「ここが家庭科室で、そっちが音楽室。理科室はそこで、技術室は向こうだから」
「は、はい」
「で、ここが図書室」
 校舎三階の最も奥まったところにある図書室。扉の奥からひんやりとした風が吹いてくる。
「もしかして、入部希望なの?」
 渡会先輩は扉に手をかけた状態で、こちらを向いた。
「ええと、生徒会長さんに誘われて」
「ああ、部長か」
 渡会先輩はそう言って扉を開いた。
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