君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
「部長! どういうつもりですか!」
 大きな声が図書室に響く。その声を聞いて、ゆっくりと竹内先輩が振り向いた。
「ここは図書室よ。騒いじゃ駄目」
「そういう問題じゃありませんよ。事情を知らない新入生を勝手に勧誘しないでください」
「あら、菅原くんじゃない! 来てくれたのね?」
 竹内先輩はこちらを向いて手をふっている。その横には不気味な笑みを浮かべている川越先輩。そしてもう一人は見覚えのある人物だった。
「沙也佳?」
「あ、ゆーりっ! ゆーりも文学部に入るの?」
 そこに居たのは幼なじみの槙沙也佳。小さい頃から小説家になるのが夢で、作文コンクールなどで数多くの入賞記録を持っている。文学部にはぴったりの生徒だ。
「僕は、ちょっと見学で」
「まあまあ、そんなところに居ないで、こちらにいらっしゃい」
 竹内先輩が手招きしている。僕は促されるまま渡会先輩の隣の席に座った。

「遅くなりました」
 僕の後にやってきたのは二年生の森村慎吾先輩だ。学級会長に選ばれ、会議に参加していたために遅くなったらしい。
「それじゃあ、いつものメンバーが揃ったことだし、始めますか」
 竹内先輩が立ち上がってそう告げた。川越先輩はホワイトボードに「第一回 定例会」と書いている。
「新入生が二人来ているわけだけど、まずは私たちの自己紹介から始めましょうか。私は部長の竹内晶。文学部と言っても、私がやっているのは生徒会通信の作成ね。小説とかは得意じゃないの。次、将志」
 将志、と呼ばれて川越先輩は不気味に笑いながら立ち上がった。
「くくっ。僕は三年の川越将志。文学部と言いながら、やってることは科学実験ばかりさ。よろしく」
「早く座りなさいよ。次、渡会くん」
「はい。俺は二年の渡会将志です。やってるのは、その……」
 それまでの鋭い視線が急に力を失った。何か言いたげな顔をして竹内先輩のほうを見ている。
「何恥ずかしがってるのよ。ちゃんと説明してあげて」
「病院で、絵本の読み聞かせのボランティア、してます」
 恥ずかしそうに、小さな声でそう言うと、すぐに着席してしまった。確かに読み聞かせをする姿は外見からは想像できない。
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