珈琲時間
12/6「かけ算」
 手が冷たい人は、心が温かい。

 「よく聞く言葉だけど、それじゃぁ、心が温かい人たち同士じゃ、手を温めあうことは出来ないってこと?」
 コンビニからの帰り道、隣を歩く、まだ友だちという関係の彼に聞いてみる。
 飲み会の買出しで抜け出して、無理やり作った二人きりという時間。
 作り出したのは自分だというのに、何を話したらいいのか分からなくて、冷たくなってる自分の手を話題にしてみた。
 出来れば、手をつなげないかなぁ、なんて打算的な考えがあって口にした話題だったのに、声にした途端、恥ずかしくなってしまって、実は今かなりドキドキしっぱなしだったりする。

 「千坂って、冷え性?」
 「え? あー、うん。夏はともかく、冬は布団の中でも冷たいまんま」
 片方の手には、スナック菓子やおつまみの入った袋を握ったままなので、片手だけに息を吹きかけて温める姿も様にならない。
 しばらく待って、相手がちっとも話題に乗ってこないことを確かめて、そっと手を自分のコートの中にしまい込んだ。
 いつまでも外に出していたら、いい加減血が通わなくなってしまう。

 「なあ、千坂」
 コンビニから家まで、後半分くらいまで来た頃。
 江沢が急に口を開いた。
 「何?」
 「さっきの話だけど」
 「?」
 「ほら、『心が温かい人たち同士じゃ、手を温めあうことは出来ない』ってやつ」
 「ああ。……で?」
 話を持ち返されて、ドキッとする。
 一旦は落ち着いて、静かになった鼓動が騒ぎ出す。
 「2人とも、冷たくても、マイナスとマイナスをかけるとプラスになるだろ? だから、冷たい同士でも、ちゃんと手は温まるんじゃないか?」
 ……この人は、そんなことをずっと考えて歩いてきたのだろうか。
 そういうところが好きなのだと、わかってるからどうしようもない。
 「かけるの? マイナスにマイナスを足したら更にマイナス、って考えはないわけ?」
 「じゃ、確かめてみるか? 俺の手もいい感じに冷たくなってるから」
 「え?」
 「部屋に着くまでに、温かくなれば、掛け算。冷たいままだったら、足し算」

 差し出された手を一瞬見つめる。
 「わかった。温かくなったら、江沢の考えがあってたってことで、江沢の勝ちね」
 そう言って、静かにあたしは手をからめた。

●PCを売ってると、手がかじかんできます。……冷え性には辛い季節が来ましたねぇ。
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