魔王と王女の物語
ジャンから案内された町は、100人ほどの規模の小さな村だった。

自給自足の生活をしているらしく、商店らしきものもない。

建物も小さなものしかなく、こじんまりとした石造りの家が点々と建っている。

馬車からラスを下ろしたコハクのマントをジャンが引っ張って柵に囲まれた一角を指した。


「山羊を柵に入れて来るからあちこち見てて。僕の家に案内するから」


「礼はあるんだろうな?」


「うちの村は貧乏だから…そうだ、山羊あげるよ、それでいい?」


だが瞳を輝かせたのはラスだけで、コハクは鼻を鳴らしてジャンの手を振り払う。


「山羊とか要らねえよ。もっとこう…女とか…女とか女とか?居ねえのか?」


ラスがティアラと2人で山羊を撫でくり回して夢中になっているのをいいことに、まだ汚いことを何も知らない少年にそんな提案を持ちかけてリロイに蹴られた。


「気にしないで。でも…女性が居ないみたいだね。どうして?」


「…1人だけ居るよ。とりあえず村の1番奥にある赤い屋根の家を見に行ってみて。あの家には誰も近寄れないんだ。どうしてなのかは…見たらわかるよ」


――まだ何かを隠しているらしいジャンの表情はずっと曇っていて、やけに目立つ一向を伴ってきたことであちこちから住民が出て来る。


…みんな男だ。

しかも若い男はほとんど見当たらず、コハクはラスを抱っこすると歩き出した。


「コー、自分で歩けるから」


「だーめー。お前長い距離歩いたことないだろ?脚にまめでもできたらどうするんだよ。萎えるっつーの」


できればラスが今後も1人で何もできないような…

自分に依存するようにしたい魔王は、一切合財の雑事を一手に引き受けて、ラスの白い頬を膨らませた。


「まめができたっていいもん。コーが治してくれるでしょ?」


「ぺろぺろしてくれって言ってんのか?うん、それもイイ!」


「影、ラスを穢すな。早く歩け」


目的は狼退治なので、自信のあるリロイが先を歩き、ティアラが傍に寄りそう。

そういう光景はもう日常茶飯事になっていたのだが、ラスは複雑な気分だった。


幼馴染の存在が遠くなる。

少し悲しくなってコハクに抱き着いた。
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