魔王と王女の物語
“おばあさん”が手招きしている。


だが…手袋をしていた。

露出いている場所といったら、マスクと眼鏡の隙間と手しかない。


しかも、もじゃもじゃだ。


「おばあさん、毛深いね。あ、気にしちゃうから言っちゃ駄目だよね」


「まあ獣だから仕方ないだろうな。あいつ人間に化けて何してんだよ」


「え?おばあさんは人間じゃないの?どうしてわかったの?」


「チビより賢いからー」


ぷう、と頬が膨れたラスをまた抱き上げて、魔王が頓着なく“おばあさん”に向かって近寄ろうとしたので、

ようやく追いついたジャンが慌ててマントを引っ張るとコハクを引き留めた。


「首が締まるだろうが」


「と、とりあえず僕や村長たちの話を聞いて!」


その間も“おばあさん”はラスとティアラに向かって手招きをしていて、不気味なことこの上ない。

しかも…

庭の片隅には、何か得体のしれない動物の骨のようなものが堆く積まれていていた。


「あいつがこの村に悪さをしてるんだね?」


「うん…。こっちに来て」


案内された先は真っ白な長屋で、村で1番大きな家だった。

ジャンが中に入ると村の男たちが集まっていて、皆が一様に固い表情をしていたが、


ラスとティアラの可憐なペアを見て、ジャンと同じようにでれっとなり、魔王が指を鳴らして我に返らせる。


「はいこっちに注目ー。あの狼ヤロウをやっつけたらいいんだよな?見返りは?そこが重要なんだけど」


「大丈夫です、僕ら見返りとか求めてませんから。あの真っ黒いのの発言はお気になさらず」


よっぽど信頼性のあるリロイのマントに刻まれているゴールドストーン王国の紋章を見た男たちは瞳を輝かせて次々とリロイに握手を求めた。


「勇者だ、勇者様が村に来てくれたぞ!」


「あの狼はここに来てから女を食ってしまうんです。今は他の村に避難させています。どうか退治を!」


――リロイばかりが頼られて面白くなくなったコハクが唇を尖らせると、隣に立っていたラスがマントを引っ張ってきて、にこーっと笑った。


「コーが1番強いのは私が知ってるよ。コー、勇者様になってきてね」


魔王、自信復活。
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