魔王と王女の物語
揃って風呂場から出ると、ずぶ濡れになったコハクが髪をかき上げながら舌打ちをした。


「俺が覗こうとしてるってよくわかったな」


「真っ黒いいやな気配がしたもの。誰だってわかるわ」


「コー、早くお風呂に入った方がいいよ、風邪引いちゃう」


そんなラスの金の髪からはまだ水滴が滴っていて、やはり1人では満足に風呂にも入れないラスににやりと笑いかけて、バスタオルで丁寧に髪を拭いてやった。


「チビこそ風邪引くなよ。あ、引いてもいいぞ、俺が全力であっためてやっから」


「早く行きなさい!」


また怒られて、最近怒られっぱなしの魔王はラスから手渡されたバスタオルを肩に引っかけながら風呂場へ移動し、ばさばさと服を脱いだ。


「あの女、イイ女だったなー。選択ミスしたかな」


今はリロイに事情を話しているであろう短髪の女が頭に浮かんだが、それよりも近いうち、ラスをどうこうする妄想が一気に膨らんで、1人で含み笑いをしながら壁に手をつき、頭を下げて頭上からシャワーを浴びる。


「ふふふふ、可愛いぜ!!」


妄想だけで十分コーフンできる魔王は妄想に夢いっぱい希望いっぱいで、湯に浸からずにシャワーで済ませると風呂場を出た。


もう陽も完全に暮れて、灯りが必要なのにラスがいつものようにコハクが歩き回れるように必要最小限のランプだけをつけるようにお願いしていて、室内はやや暗い。


が。


肝心のラスが居ない。


「おい、俺の天使ちゃんはどこ行った?」


「その辺散歩してくるって言って出て行った。僕もついて行くって言ったんだけど…」


「ふざけんなよチビを独りにさせるな。俺ちょっと行って来るし」


短髪の女…ジェシーの話や村長、ジャンたちの話をリロイとティアラが熱心に聞いていて、そういうのに全く興味のない魔王がラスを求めて外へと出る。


「チビー、どこだー?」


魔物は夜になると活発化する。

あんな小物でも意外に力を発揮したりするので、一応村全体を歩き回ったが、見つからない。


「あいつ…まさか1人でワン公の所に行ったのか?」


さすがにちょっと焦って早足で“おばあさん”の所へ向かった。
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