魔王と王女の物語
一瞬少し苦い味が広がって、その後ミルクの甘い味が口いっぱいに広がり、息をつく。


「美味しいっ」


「それは良かった。…おや、どうしたんだい?身体が揺れてるよ?」


大きな眼鏡と大きなマスクをした“おばあさん”が近付いてきて、


何故か急に眠気が襲ってきたラスは、ホットミルクに睡眠薬を入れられたことに全く気付かず、額を押さえる。


「大変だ、さあ私のベッドをお使い」


ひょいと身体を持ち上げられてベッドに寝かされ、その時はすでにラスは寝入ってしまっていた。


「…おやおや、薬の効きやすい子だね…。この肌、美味しそうだ…。やっぱり若い女に限るねえ」


ラスが来ていた白のサマードレスを脱がせてると、


“おばあさん”こと狼はとうとう本性をむき出しにして、自らもおばあさんになりきるためのマスクやネグリジェなど全てを取った。


「いただきまーす」


――その時“狼屋敷”に向かっていたコハクは、急にラスの気配が消えたことで赤い瞳がすっと細くして立ち止まった。


「あのヤロウ…」


コハクの身体から殺気が噴き上がり、表情が険しくなった。

そして空には一気に雷雲が立ち込めて、ラスの嫌いなな“ごろごろ”という音が近付いて来る。


強風が少し長い髪を浚い、ドアから少し離れたところに立つと、すう、と長い腕を伸ばした。


途端、ドアが木端微塵に弾け飛ぶ。


そこには…完全に元の姿に戻った狼が居て…


腹はぱんぱんに膨れ上がっていた。


「おい…てめえ…まさかチビを…?」


「ああ、美味しく頂いたよ。これは返してあげよう」


ぽいっと投げつけてきたのは、ラスが着ていたサマードレスと下着類。


…静かに怒髪天にきたコハクは、それでも冷静に狼の腹を見つめた。


縦に大きくチャックがついている。


その一番上は隙間があって、そこからこの世界ではない風が吹いている気配がして、口角を上げて笑った。


「そのでかい口で食ったわけじゃねえみたいだな。丸飲みか?」


「そんなことは気にしなくていい。さっきの娘、そろそろ溶け出す頃だ。これでしばらく食わなくて済むよ」


魔王、にやりと微笑む。
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