魔王と王女の物語
まだ雨は降っていて、ラスが濡れないように頭からすっぽりマントをかぶせていたコハクは逆にずぶ濡れになった。


「風邪引いちゃうよ、早くお風呂に入らないと」


「あー、それもイイ!けど…ご褒美がそんなもんで俺は納得しないからな」


「何をすればいいの?」


大きなグリーンの瞳と目が合い、純真王女の真っ直ぐな視線に俄然コーフン気味の魔王は雑念を払うように首を振った。


「アレはまだ取っておいてー、コレも駄目だろ?じゃあ後はなんだ。…やっぱアレしかねえ!」


コハクが歩く度に長い黒の前髪から雫が滴ってきてラスの頬にあたり、こうやって抱っこされるのは慣れっこなのだが、


何故かコハクにきゅんとしてしまったラスは首に腕を回すと抱き着いて顔を隠す。


「ん!?な、なんだよ…怖かったのか?ったくチビはかーわいいなあ」


「怖くなかったもん。コーがかっこいいからちょっとびっくりしただけだよ」




……その場にリロイやティアラ、村長たちが居なかったら正直理性を保つ自信がないほど内心絶叫。


“押し倒してぇ!”


だが耐えた。

耐えまくってつい声を漏らした。


「ふふふふ」


「コー、怖い」


とにかくラスが濡れないように注意しながら森を抜けようとした時、森の奥から感じて脚が止まり、ラスの両目を手で隠しながら、赤い瞳で射殺すように右手方向をぎっと睨むと…


そこには、金色の緩いウェーブがかった長い髪をひとつつにくくった美しき剣士が立っていた。


ラスと同じ金の髪に緑の瞳…


決定的に違うのは、その美貌には何の感情も持ち合わせていないかのような無表情だ。


「誰だよ」


「?コー?」


ラスに視線を落としてまた戻した時にはすでに剣士は消えていて、首を捻りながらまた歩き出す。


いい女だったが、それよりもラスからの“ご褒美”の方に夢中だったのでまたいそいそと歩き出す。


「コハク様、ありがとうございます!狼が退治されたぞ、これで村は安泰だ!」


村が活気づき、ラスがにこにこと笑って魔王の頬にキスをした。


「コーは村の“勇者様”だね」


「俺はお前だけの勇者様でいいや」
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