魔王と王女の物語
“お前だけの勇者に”


コハクからそう言われて、かーっと顔が赤くなったラスは村長の家に着いてコハクから降ろしてもらうと…

膝から力が抜けて崩れ落ちそうになるのをコハクが慌てて抱きかかえた。


「おい、どうした?」


「わかんない…なんか…身体があちゅい…」


ろれつが回らなくなって、顔が真っ赤になっているのを見たティアラがラスの額に手をあてると慌てて癒しの力を呼び起こす。


「熱があるわ。濡れてないみたいだけど…どうして?」


「息も臭けりゃ腹ん中も瘴気が漂ってたもんな。長い間チビは居たし…俺がやるからいいって。離れろよ」


――相手が同性であれ、ラスに触れる者には容赦なくやきもちを妬く魔王は…


仕方なく今夜のご褒美を諦めた。


ただれた肩の傷は結構痛かったはずだ。

なのに泣き言ひとつ言わずに我慢して、訴えてこようともしなかった。


「変なとこで意固地なんだよなー」


小さな頃からそう。


“コーは悪い人じゃないもん!”


カイやソフィーから“影と話すのはやめなさい”と窘められる度に本気で怒り、大好きな両親と一言も口を聞かずに1日を過ごすこともあったりして、


最初はカイの娘を弄んで無茶苦茶にして廃人同然にしてやるつもりだった。


…だが影となって成長を見守って行く年月を重ねる毎に、いつしかそんな考えは霧散する。


美しく成長していくラスを見るのが楽しかった。

いつも真剣に庇ってくれることが嬉しかった。


「おいチビ、寒いか?暑いか?どっちだ?」


「寒い…」


「じゃあ俺が湯たんぽだな。それ脱いだ方がいいんじゃね?ひと肌の方がすぐあったまるからさー」


下心満載でラスをベッドに下ろして脱がせつつ、自分もいそいそと脱いでぎゅっと抱きしめて、触れた掌から優しい光のような力を送り込む。


「チビに元気がないと調子出ねえんだよ。つか早く元気になって俺を誉めてくれよ」


「………コー……むにゃ…」


コハクの体温が移って身体があったまったラスがうとうとして、眠りに落ちる。


だ外は雨が降っていた。

雨音は嫌いじゃない。

ラスと一緒の雨ならば――

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