魔王と王女の物語
一行にはそれから数日間、魔物の襲撃はなかった。


ただ日を追う毎にコハクの機嫌は悪くなっていて、ある日休憩中にとうとう叫んだ。


「あー、うぜえ!うぜえんだよ!」


「え、コー!?どうしたの!?」


切れ長の赤い瞳には明らかな苛立ちの光が浮かんでいて、暗くてよく先が見えない森の奥に手を翳すと、横凪ぎに思いきり凪いで、一気に森を真っ赤に燃え上がらせる。


ラスたちはとにかくその突然の行動に驚いて、慌てて逃げ出す動物たちを哀れに思ったラスが熱風に髪を揺らしながらいらいらと足踏みをしているコハクの腕に縋り付いた。


「コー、森が無くなっちゃう!」


「隠れてる奴が出てきたら消してやるよ」


コハクがずっと鋭い視線で見つめている先からゆっくりと人影が姿を現した。


…あの女だ。

村からずっと跡をつけていた金髪の女の剣士。


「…お前が魔王だな」


「ああ、そう呼ばれてるけどだからなんだよ」


横柄な態度に横柄な返事を返すと、相変らず無表情の美貌の口角が上がった。


「そうか、やはりお前か。…私を見ていて何か感じないか?」


――不思議なことを言われていらつきながら女の剣士を注視すると…その身体からゆらりと湧き上がるグリーンのヴェールのようなものが見えた。


「お前…それは呪いじゃねえか。そんなもんくっつけてどうした?」


さりげなくラスを背後に庇いながら問いかけると、女剣士はまず名を名乗った。



「私はグラース。妖精の森に迷い込んだ時、女王から呪いを受けた。お前を妖精の森へ連れて行けば呪いを解いてやると女王から言われた。だからついて来てくれ」


「やだね。あいつ美女だけど高慢ちきで嫌いなんだよ。悪いけどよそを当たってくれ」


「…力ずくでも連れて行く」



グラースがすらりと剣を抜いて、リロイが気色ばんだ時、グラースがその剣に注目して素早く駆け寄り、

魔王ではなくリロイに向けて剣を振りかざす。


「うわっ!」


標的が変ったことで驚いたリロイが鞘で剣を打たれて魔法剣を落とした。


それを素早く拾い上げながら、コハクに向けた。


「これで死ぬんだろう?やるか?」
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