魔王と王女の物語
魔法剣の切っ先を向けられてもコハクは全く動じず、腰に手をあてて人差し指をくいくいと折り曲げて挑発した。


「やるか?手加減しねえぞ」


無表情のグラースがまさに走り出そうとした時――


「やめて!コーになんにもしないで!」


コハクの前に両手を広げて立ち塞がったのは…ラスだった。


…小さな頃と同じだ。

無鉄砲で、いつも自分を庇ってはカイたちを困らせていた小さな女の子。


きゅんときた魔王は、腰を屈めてラスの頬にちゅっとキスをすると抱き上げてグラースを指さす。


「チビが助けてくれるのか?どうやって?」


「わかんないけど…コーが怪我するのはいやなの!傍に居てくれないと…いやなの!」


必死になって精一杯グラースを睨みつけるが、この女剣士は相変わらず表情ひとつ変えず…


逆に見るに見兼ねたティアラがグラースに対して無駄だと言わんばかりのため息をついて呼びかけた。


「その魔法剣はまだ力を取り戻してないの。傷つけることはできても殺すことはできないわ。だから諦めて」


ぱっとラスの顔が輝き、この王女に振り回されている自覚がありながらも、リロイも続く。


「話を聞かせてほしい。影を殺すことができても君の呪いは解けないんだろ?逆に殺されかねないから落ち着いて話をしよう」


「…わかった」


魔法剣を放り投げると放物線を描いて正確にリロイの手元に飛び、腕を伸ばして受け止めて鞘に収めた。


「リロイかっこいい」


「…俺の方がかっこいいっつーの」


――そしてラスがまだ燃えている森を悲しそうに見つめたので、

ラスを下ろしてからコハクが口の中で何かを唱えて腕を伸ばして焼け落ちる寸前の森を指さす。


「ウンディーネ、あれを消してくれ」


『わかったわ』


問いかけに応える者がラスの掌から聴こえて驚いて見下ろすと…

自分が流した涙がゆらゆらと揺れて透明な女性の姿になると、何百倍…何千倍の体積に増えて森を一気に包み込む。


「あれは…精霊…!」


「あれは四精霊のうちの水…ウンディーネだ。ご苦労さん」


『いいのよ、また呼んでね』


…改めて魔王に恐怖を覚えた。
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