魔王と王女の物語
食事も早々に切り上げたリロイは早足で宿に向かい、

後ろをちょこちょこと小走りについて来ているティアラに気がついていながらも優しくしてやることができずに、

ようやく部屋の前で立ち止まると、息切れをして胸を押さえているティアラを振り返った。


「僕は大丈夫ですから。あなたも早く休んで下さい」


「…いいえ、あなたが落ち着くまで傍に居ます。お邪魔しますね」


心臓が口から飛び出そうになりながらリロイの部屋に脚を踏み入れて小さな机の前の椅子に座ると、

困った顔をしたリロイがマントと鎧を脱いでソファに置き、薄着のままティアラの前で片膝をついて見上げた。


「あなたは王女ですよ。ただの騎士の僕の部屋に入って来るなんて…」


「ただの騎士なんかじゃありません。…あなたは…私の勇者様です」


――これは愛の告白をしたのと同じだ。

リロイもそう感じて、顔を真っ赤にして俯いているティアラの手を握り、ようやく笑顔を見せた。


「ありがとうございます。あなたは僕にはもったいない。早くあなたに本当のあなただけの勇者が見つかりますように」


「…リロイ…っ!」


首に腕を回して抱き着いてきたティアラに身体が引きつり、ラスにもティアラにも触れないと決めていたリロイは背中に腕を回しそうになって、小さく息をついた。


「僕はあなたやラスに邪な思いを抱いて触れないと決めたんです。だから誘惑しないで下さい」


「邪…?私に…邪な思いを?」


まだランプに火も灯していない暗がりの部屋で見つめ合った。


元々根っからの素直で純情なリロイは、ティアラと同じ位顔を赤くしながら俯き、ティアラの甲を親指で撫でながら小さな声で呟く。


「…キスをしてから、あなたを少し意識してしまっています。申し訳ありません」


ティアラはもう、想いを止められなかった。


――リロイの頬を両手で包み込むと顔を上げさせて、驚いたように半分開いたリロイの唇に唇を…重ねた。


「…っ、ティアラ王女…」


「わ、私からしてるんです。だから…あなたは後悔しないで。お願い…」


…リロイはラスを失ってしまうかもしれないという喪失感を埋めるようにティアラを抱きしめた。
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