魔王と王女の物語
翌朝、グラースが談話室の窓から見える町並みを見ながらコーヒーを飲んでいると…いつもラスの傍にいるはずのコハクが階上から欠伸をしながら降りてきた。


…何をするにも様になるほど顔が整っている。


だが意地の悪さが際立つ種の美貌で、ラスと一緒に居ない時のコハクの表情はワルさを隠さなかった。


「ラスはどうしている」


「まだ寝てる。チビは寝ぼすけなんだよなー」


“チビ”と呼ぶ声は、本人は気付いていないようだが愛情に溢れていている。


「そうか」


さして興味を持った様子はなく、また窓に視線を向けようとしたが、


急に顎を取られて上向かせられたと思ったら、いきなり舌が口の中に押し入って来て、音が鳴った。


「…」


「なんだ、無反応か?感情だけじゃなくて感碓も奪われたか?」


「キスは上手いがお前は私のタイプじゃない」


嘲笑うと、普通は怒る所だがコハクは“へえ”と言って手を離すと隣に座った。


「好きな男でも居るのか?なんか無茶苦茶にしてやりたくなってきた」


相変らず性格の悪い笑みを浮かべてさらに手を伸ばそうとした時2階からラスとティアラの声が聴こえて、


椅子から立ち上がり、階段下まで行って階上を見上げると魔王が両腕を広げる。


「チビ、早いじゃん。さあ俺の胸に飛び込んで来い!」


「やだ、怪我しちゃうよ。コー、お腹空いた」


「腹の中に虫でも飼ってんのか?いっつも腹減らしてんじゃん」


――純粋に嬉しそうに笑っている魔王。


この性格も悪ければ態度も悪く、唯一良いのはその外見だけの魔王を手懐けているラスに心底感嘆したグラースは、


早速ラスを抱き上げてべたべたしている魔王の腕の中でこちらに気付いたラスに手を振った。


「グラース、おはよう!お腹空いたよね?」


「ああ。一緒に食べよう」


「うんっ」


早速駆け寄ってきたラスのまだ寝癖がついている金の髪を撫でてやりながら鼻を鳴らして魔王を見上げると…


「ちっ、お前…後で覚えてろよ」


「コー、喧嘩は駄目っ」


ラスに叱られて唇を尖らせた魔王はふてくされながらベルルで手遊びを始めた。
< 193 / 392 >

この作品をシェア

pagetop