魔王と王女の物語
翌朝目が覚めたラスは隣でまだ寝ているコハクを見ながら欠伸をして、リロイの部屋に押し入った。


「リロイ、起きてる?」


返事はなく、ベッドに近寄ると上半身裸で寝ていて、

横向きに寝ていたリロイの隣に潜り込むとまるで父のカイと一緒に居るような気分になって…抱き着いた。


「わっ!?ら、ラス!?な、な、何をして…」


「おはようリロイ。リロイの後ろ姿がお父様みたいで懐かしいな。寝てるところ邪魔しちゃってごめんね?」


――魔王絶賛推薦の少し透けたピンクのネグリジェ姿。

…朝っぱらからそんな光景を見せられたリロイはぎゅっと瞳を閉じて、胸に回ってきているラスの手をやんわりと外した。


「…こんなとこ見られたら魔王にいじめられるのは僕なんだから、早く部屋に戻った方がいいよ」


「私がリロイを庇ってあげるから大丈夫。コーは私の言うことならなんでも聞いてくれるんだから」


「…へえ。こういうことしても?」


突然がばっと起き上がって覆い被さってきたリロイに瞳を真ん丸にしたラスがすぐ近くにあるリロイの顔を見つめて、

たくましい身体つきのリロイにようやく“こういうことをしては駄目なんだ”と気付いて、腕を突っ張って胸を押した。


「私がコーに怒られちゃう…だから戻るね」


「戻れると思ってるの?そんな恰好で部屋に来て、誘ってるとしか思えないよ」


――兄のように慕っていたリロイが男の表情を見せて突然怖くなったラスが身を竦ませると…


リロイは小さく息をついてラスの身体にガウンを巻き付けた。


「ほら、早く戻って。もう少ししたら出発するから用意をしておいてね」


「う、うん」


よろよろと立ち上がって部屋を出て、どきどきしながら自分の部屋に戻ると…


「チービー、どこ行ってた?起きたら居なかったから寂しかったじゃん」


頬杖をついて待ち構えていたコハクの隣に転がり込むと、誤魔化してみた。


「えっと…お、おし…」


「こらー、それは言うなって言っただろ?小僧の匂いがするぞ、俺を怒らせたいのか?」


赤い瞳がさらに濃い赤に変化して、コハクが呟いた。


「やっぱ殺しとこっかな」
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