魔王と王女の物語
円形の低い塀に囲まれ、上質な蒸留酒が有名な王国に脚を踏み入れると、


城も城下町も…そして人々さえも凍りつき、全く動かなかった。

突然襲ってきたのか、空を見上げて凍った者や、今にも走り出しそうな犬…全てが凍っている。


「凍ってる…全部…凍ってる…」


「妙な音がする。グラース、この音はなんだと思いますか?」


みしみし、ぎしぎし。


何かが軋むいやな音がして、リロイに問われたグラースは足早に城へと向かいながら首を振った。


「嫌な予感がする。聖石を見つけたらすぐにここから立ち去ろう」


ラスは滑らないようにコハクに抱っこされながら横を通る時に凍った男に触れてみた。


ぱりん。


「きゃ…っ」


儚い音がして、男の身体は粉々に砕けて崩れた。


「触んなチビ。もうここは駄目だ。魔法使いを頼らずに水晶に頼るからこうなったんだ」


「どうして魔法使いは突然魔法を使えなくなったの…?」


「諸説あるけど、人に頼られなくなったから、神から力を取り上げられたとか言われてる。魔法使いは人に頼られて、人のために魔法を使う。だけど水晶を見つけた人間は次はそれに頼ることに決めた。その結果がこれだ」


「でもコーは魔法を使えるでしょ?どうして?」


それにも答えてやりたかったが、リロイたちが聞き耳を立てているのはわかっていたので、

ラスにしか自分の秘密を話すつもりのないコハクはラスの頭を胸に押し付けると頬にキスをした。


「後で話してやる。まあとりあえず聖石捜しだな」


コハクを危険に陥れるイエローストーン。

そんなもの、見つからなければいいとラスは思い、城が近付く度にコハクに強くしがみついて、固く瞳を閉じていた。


「チビ…大丈夫だって。俺なら平気だから」


「何が平気なの?私は平気じゃないもん…。ねえコー、逃げようよ。2人で逃げよ?」


コハクの脚が止まった。

“駆け落ち宣言”にも近いラスの言葉に嬉しくなって、今まで固かった表情も一気に緩み、滑る氷の上で頭上までラスを持ち上げてくるくる回った。


「きゃー!」


「可愛すぎるんだよ!チクショウ!」


ラスは自分の癒し。宝物。
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