魔王と王女の物語
ラスとリロイの数々の逸話はティアラとグラースを和ませたが、1時間ほど経過すると、ラスのそわそわが止まらなくなった。


『ラスに優しくしてやれ』


そんな忠告を受けたリロイはラスの手からマグカップを取ってテーブルに置くと、腰を上げて笑いかけた。


「もう休もうか。よく考えると僕以外はみんなお姫様なんだよね。野営とかさせて申し訳ないな」


「私は野営好きだよ?でも大きくてふかふかのベッドに寝れるのって久しぶり」


きらきらと輝くエメラルド色の瞳。

成長するにつれて目じりが下がっていき、唇はふわふわになって…

金の髪もさらに輝きを増して、ラスの全てがリロイを虜にし続けてきた。


…ラスを悲しませたくない思いは一緒だ。

こんなにも純粋無垢なラスを…汚されたくない。


「僕が部屋まで連れて行ってあげる。抱っこしてあげようか?」


「ううん、コーに怒られるから自分で歩く。ティアラ、グラース、おやすみなさい」


ひらひらと小さく手を振ると2人も振り返しつつ、顔を見合わせた。


「まさかリロイはラスを襲う気じゃ…」


「リロイはそんな方ではありません。…私はそう信じています」


――身体は重ね合ったけれど、心はラスに奪われたままのリロイ。

…ラスとコハクは一緒に居るべきだ。


「ティアラ…お前はそれでいいのか?」


「…ええ。私はリロイが好き。リロイのために何かしたいけれど…ラスと魔王は一緒に居るべきです」


グラースも同じ気持ちで、2人は強く頷いて夜空を窓から見上げた。


――その頃ラスはコハクの私室に着くなりベッドにダイブした。


「このベッド、すっごく気持ちいいの!リロイも座ってみる?」


「僕はいいよ。お風呂を入れてあげるね」


ラスは強国ゴールドストーン王国の王女なのだ。

風呂に毎日入れない旅を強いられて、普通ならば文句のひとつも言ったっていいのに、ラスは不満ひとつ言わずここまで来た。


…コハクのために。


「コー、遅いね。私は大丈夫だからティアラと一緒に居てあげて」


欠伸をしたラス。

…これからコハクと一緒に寝るであろうラス。


拳が、震えた。
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