魔王と王女の物語
素晴らしい朝食を食べて大満足のラスはまたバルコニーに出ると、街の四方を彩る花畑の光景に熱中していた。


「おい」


ようやくコハクが起き上がって、オーディンに声をかけた。

ラスに聴かれないように注意しながら、繊細な手つきで紅茶を淹れている人外の者の肩を抱いて耳を引っ張った。


「俺に万が一何かあったら…お前がチビを守れ」


「…万が一、とは?」


グレーの瞳がこの時鋭く光り、

コハクはちらちらとラスに目を遣りながらも、これだけは伝えなければならないという思いで続けた。


「あの金髪の小僧だ。最近大人しくしてるから余計に気になる。もし万が一…」


「わかりました。あなたに何かあれば、私があのお姫様をお守りします。これは命令ではありませんよね?」


再び慣れた手つきで薔薇の絵が描かれた上品なティーセットに紅茶を注くオーディンはいつも通りで、

コハクは頷きながらも、忠告だけは怠らない。


「…手は出すなよ。ぜーったいだからな」


「わかってますよ。ラス様、こちらをどうぞ」


「わっ、美味しそう。ありがとう」


オーディンの呼びかけにラスが駆け寄ってきてティーカップを受け取ると、コハクを見上げてにこーっと笑った。


――愛しく想っている女と想いが通じて幸せな反面、気がかりもある。

…リロイとティアラがくっつけば、何ら問題はなくなる。


「…ま、それはないか」


「え?なにが?」


「秘密ー」


ふうふうと頬を膨らませて紅茶の熱を冷ましているラスと一緒にソファに座り、腰に腕を回すと頬にキスをした。


「街にさあ、ウェディングドレス置いてる店があるんだけど。行ってみるか?」


「えっ?ほんと!?わ、どうしよう、行きたいな…。行ってもいい?あの…試着とかしたいな」


「いいんじゃね?俺たちが式挙げる時は仕立てさせるからデザイン考えとけよ」


「どうしよう、私がデザインしてもいいの?!ティアラとグラースに相談しなきゃっ」


最上級のエメラルドのような瞳が輝いて、今にも涙が零れそうになった。


ラスを喜ばせたい。

ラスに喜んでほしい。


ラスこそが、自分の全て。
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