魔王と王女の物語
旅の支度も終えてリロイたちと合流するために部屋を出ようとした時、コハクが呼びかけてきた。


「チビ」


「?どうしたの?」


コハクが無言のままにバルコニーに向かって空を指した。


雲は厚く、時々陽の光が差すが、天気は常にこんな感じだった。


なのでラスは何も気にせずにいたのだが、コハクは違った。


「チビの影の中に居てやろうか?」


「どうして?」


「だって…たまには太陽の光を浴びたいだろ?やっぱチビは太陽の下が似合うと思うからさ」


…今さら。

ラスはそう思って首を傾げたが、コハクは常々そう思っていて、特にこの春の国のような街に着いてからは強くそう感じていた。


――コハクの質問には答えずに目の前に立つと、赤い瞳には自分を気遣ってくれる光が揺れていた。


そう、コハクはいつも自分を最優先に物事を決めてきてくれた。


だが…

コハクは自分の夢を知らない。


「コー」


「ん?…んぉっ!」


突然ラスが両の頬を手で挟むと背伸びをしてコハクの唇を奪った。

軽くではあるが、魔王をコーフンさせるには十分な威力で、


フリーズしているのをいいことにぎゅっと抱き着いて背中を擦った。


「コー、ありがとう。でも私、コーと一緒に歩きたいからいいの。コーが私の影から居なくなったら一緒に太陽の光を浴びてお散歩しようね」


…ふいに涙が零れそうになった。


“一緒に歩こう”と言ってくれたラスの言葉はコハクの涙腺を崩壊させてしまい、つい涙声になりながらラスを身体に埋め込むようにして抱きしめた。


「…この天然プリンセスめ。押し倒したくなってきたじゃねえか」


「駄目だよ私早くウエディングドレス見たいんだから!コー、早く行こ」


息ができなくなって苦しそうな声を上げたラスを姫抱っこすると部屋を出て螺旋階段を下りながらとにかく触りまくった。


「コー、お尻ばっかり触らないで!くすぐったいから!」


「ちっせえなあ、ガキをバンバン生んでもらわなきゃいけねんだからちゃんと太れって。オーディン、蜂蜜を瓶に詰めて持って来い!」


まるまる太らせて、ばくり。
< 332 / 392 >

この作品をシェア

pagetop