魔王と王女の物語
階段を降り切るとすでに全員が集合していた。


「ラス、おはよう」


「おはようリロイ。昨日は沢山お話できて楽しかったよっ」


リロイに軽いハグをするとコハクの瞳が一瞬細くなったが、ふいっと視線を外してオーディンに手を差し出した。


「用意したか?」


「ええ、瓶に詰めてきましたよ。最上級の蜂蜜です。ラス様の胸もこれできっとすぐ大きくなるでしょう」


「ほんとっ?じゃあ毎日舐めなきゃ!」


「チビっ、俺が舐めて…いでっ」


ラスににじり寄ろうとした魔王の後頭部をグラースが剣の鞘で叩き、笑い声が漏れた。

コハクはラスの影に瓶を入れるとリロイをひと睨みして手を引いて城から出て行く。


「…お気をつけて」


「ああ。すぐにお前を呼ぶからすっ飛んで来いよ」


――振り向かずにコハクが腕を上げ、オーディンが頭を下げた。

言い合いはするが2人の間に強い信頼関係があり、ラスが笑うとコハクがむっとした。


「なんだよ」


「仲良しなんだなって思っただけ。コー、歩けないからちょっと離れて」


「やだねー。そういやボインと小僧はよく眠れたか?あー、足腰立たないほどヤ…」


「下種な想像をするな。僕はともかくティアラを言葉で穢すと許さないぞ」


ラスが俯きながら密かに笑った。

それは、ティアラがとても嬉しそうな顔をしたからだ。

やっぱりリロイはティアラの勇者様なのだ。


選択を間違えずに良かった。

私の勇者様は、この真っ黒な男。

真っ黒だけれど、真っ白な心を持った男。


「お買いものしたいな、駄目?」


「今度な。目下の目的はウエディングドレスだろ?俺の好みは胸んとこががばっと開いたやつだなー」


「胸ちっちゃいから駄目。…お父様とウエディングロードを歩きたいな。駄目かな…」


――ラスは小さな頃から勇者の父親が大好きだった。

反対されたまま花嫁になることが少しだけ気がかりで、

コハクを見上げると…待ち構えていたかのように優しい眼差しで見下ろしてきた。


「俺頑張るから。2人で挨拶に行こうぜ」


「!うんっ」


誰からも祝福される花嫁になるために――
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