魔王と王女の物語
街のあちこちでは人間と魔物が立ち話をしている姿が見受けられた。


「人と魔物が共存してるってすごいことだよね。コー、偉い偉い」


姫抱っこして離してくれないコハクの真っ黒な髪を撫でると頬を緩めてはにかんだ。


「チビ、着いたぞ」


コハクが立ち止まった店は居並ぶ他の店よりも立派な門構えで、

ショーウィンドウには淡いピンクのウエディングドレスが飾られていて、絶叫してしまった。


「コー、これすっごく可愛い!」


「コーフンしすぎだっつーの」


でれでれしながら店の中へ入ると、そこにも粋なポーズをとった多数のマネキンがラスを迎えてくれて、また絶叫。


「きゃーきゃー!」


「わあ…素敵ね」


ついティアラがため息まじりに呟くと、隣に立っていたリロイがにこりと笑いかけてきた。


「試着してみては?」


…これを着て花嫁になりたいと思っている男は、自分ではない女に夢中だ。


だからティアラは首を振って、笑顔全開のラスに瞳を細めながら呟いた。


「いえ、これを着るのは1度だけにしたいんです。だからいいの」


…リロイが無言のまま外へ出て行く。

ティアラは店員を巻き込んで騒いでいるラスの元へと向かい、

それを見計らったコハクが壁に寄りながらリロイを監視していたグラースの隣に同じように立ってぼそりと囁いた。


「おい」


「なんだ」


「今後行くあてもないならチビの傍に居てやってくれ。チビも喜ぶ」


「…お前に何か起こるとでも?」


「万が一の話だ。俺に何かあってもなくても、お前ならチビの傍に置いてやってもいいと思ってる。チビも慕ってるしな」


…どこまでもラス至上主義。


おかしくなってつい笑みが零れたグラースと、その反応にふてくされたコハクが話している姿を目ざとく見つけたラスが尖った声を上げた。


「コー、何してるの?」


「や、猥談を少々」


「わいだん?」


――ラスの胸には大好きなレースがふんだんについたウエディングドレスが抱きしめられていて、


その姿を想像して魔王、超コーフン。


「やべ、鼻血出るかも!」


色ぼけ。
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