魔王と王女の物語
馬車の中が…花で埋まってしまい、ラスは感動にふるふると打ち震えながらコハクの手を繋いだ。


「すっごく素敵…!コー、お花の馬車!」


「そういやチビはマーガレットが好きだったな」


真っ白な花弁を持つマーガレットをラスの耳の上に挿すとふわっと笑いかけてきて和んでいると、


目の端でリロイがよろめいて馬に寄りかかったのをコハクは見逃さなかった。


「チビ、早く乗れよ」


ラスがリロイを心配しないように半ば強引に馬車に押し込むと、まだ外に居たティアラがリロイの背中に触れて顔を覗き込んだ。


「リロイ…大丈夫ですか?」


「はい、すみません。…早くこの剣を手放さなければ…」


――水晶の魔力を吸った魔法剣。

聖石と同等クラスの魔力を溜めこみ、ひとかけらも魔法を使う素質のないリロイにとっては精神的にかなり負担になっていた。


水晶に頼りすぎると、狂ってしまう。

…リロイは自身でその1歩手前に来ていることを悟っていた。


「リロイ…」


「この剣をあいつに刺せば、聖石と水晶のパワーがあいつの永遠の命をむしり取ってくれるでしょう。ティアラ…止めないで下さい」


苦しそうに顔を歪めて騎乗したリロイに出会った当初の面影はない。

重たい使命を背負い、ラスに焦がれ、魔王を憎悪し、得てはならない力に手を出したリロイ――


「お前が狂ったら私がお前を殺す」


同じように騎乗したグラースが抑揚のない声と無表情で告げると、大きく深呼吸をしたリロイは頷いた。


「わかりました。出発しましょう」


まだ心配げに見上げていたティアラは仕方なく馬車に乗り込んだ。


「遅かったね、どうしたの?」


目を上げると…


ラスは花の妖精のように魔王から色とりどりの花で髪を飾られていて、隣に座った。


「可愛いわ、素敵。ラス、この花でブーケを作る練習をしましょうか」


「うんっ。よろしくお願いします!」


コハクは欠伸をしてラスの膝枕にあやかりながら長い脚を組み、窓から外を眺めた。


城に着けばリロイと対決しなければならない。

だが殺してしまえば、ラスが悲しむ。


…密かに魔王、苦悩。
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