魔王と王女の物語
「ねえお姫様…どこか身体の具合は悪くはない?」


馬車の扉を閉める直前突然そう話しかけてきた銀色の魔女に、ラスが思いきり首を傾けた。


「え?どこも…」


「…そう?…いいのよ別に。気にしないで」


「お世話になりました。お元気で」


笑顔で手を振るラスの鼻先で馬車の扉を閉めて会話をシャットダウンすると、


コハクはにやりと笑い、馬車に寄りかかって窓からの視界を塞いだ。


そして自分の首を指先で叩いて、ラスの首につけた魔法陣を指で描いて見せた。


「それ…呪い返しの…」


「そ。朝チビの食事に何か盛ったろ?なーんかやるとは思ってたんだ。だから仕返し。悪く思うなよ」


――突然顔色が変わって膝から崩れ落ちたブレアの様子に、リロイが驚きながら馬から降りて助けようとしたが、コハクが手でそれを制した。


「自業自得だっつーの。ありゃ呪術だろ。俺のチビが死んでたらお前は今頃……」


そこで言葉を切ると赤い瞳が凶悪に歪んで、ブレアはぞっとしながら内側から競り上がってくる猛烈な吐き気や悪寒や痛みと戦っていた。


「コー?何してるの?」


馬車の中からラスが窓を叩いていたが、それを無視して、ブレアの両頬を親指と中指で強く挟んで顔を上げさせて、笑った。


「夜は楽しませてもらったから殺さずにいてやる。じゃあな」


言いたいことだけを好き勝手に言ってドアを開けて馬車に乗り込み、指を鳴らすと馬が勝手に走り出した。


2人の会話を全く聞くことができなかったラスは、

ごろんと寝転がって膝枕をしてきたコハクを見下ろしながら鼻をつまむ。


「なに話してたの?秘密ばっか作らないで」


「へえ、気になる?ちなみにお前は俺に秘密ないのか?小僧に手なんか出されてねえだろうな」


鼻をつまみ返されて、抵抗もせず視線をさ迷わせると、首を振った。


「あれは手じゃないし…私にだって秘密くらいあるもん。コーの馬鹿、私まだ怒ってるんだから」


ぷいっと顔を背けてしまったラスに、底意地の悪い魔王は思う存分腰に抱き着きながら喉を鳴らした。


「お前の秘密、いつか全部暴いてやる。全部な」


くつくつと笑った。
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