魔王と王女の物語
城の中に居た時は見ることができなかった景色――


綺麗に補整された道ではなく、昨晩の雨で泥だらけの畦道を馬車が走り、時々ラスの身体を浮かしては楽しげな声を上げ、


コハクは膝にラスを乗っけてべったり抱き着きながら頬にキスをした。


「ずっと外ばっか見てるけどそんなに楽しいか?」


「うん、楽しい!ねえ、すごく天気が良くなったね、私…ちょっと外に出てみたいな…」


レッドストーン王国まで馬車であと数時間。

指を鳴らすと馬車が止まって、先を行くリロイが馬を翻して引き返してきた。


「休憩する?」


「うん。ちょっとお尻が痛いかも…」


…本当は馬車が揺れなくなる魔法もあるのだが、魔王は意地が悪い。

わざとそうせずに、馬車が窪みに差し掛かったりして揺れるとラスがしがみついてくるので、だから敢えて魔法は使わなかった。


「そ、そっか。じゃあそこの川の前で休憩しよう」


細いが綺麗な小川が流れていて、

ラスは馬車から降りると、早速ブーツを脱いで、快晴の中すっかり乾いた短い草を踏みしめながら、陽光を反射する光のヴェールに見惚れていた。


「外って綺麗だね…」


腕に抱き着くとちゅっと頬にキスをされて、まあそれはいつものことだったので気にしなかったが…


突然右方の森の奥からくぐもった声が響いてラスが肩を揺らした。


「人間だ!人間!ご馳走だ!」


――その姿は恐竜にそっくりで、退化して短い手を揺らしながら6匹ほどの集団が近付いて来る。


「ラス、そこにいて」


鞘走りの音がして、カイから託された魔法剣を鞘から抜いたリロイが身を低くしながら風のように走り抜け、襲い来る魔物たちの心臓を狙って確実に仕留めて行く。


「かっこいい!」


「ふん、俺ならあれくらい目を閉じててもできる。…ん?チビ、それ…」


「え?」


ラスの素足には、何か液状のものがまとわりついていた。


緑色のその物体はうごうごと蠢いて、細い右脚を覆おうとしていて、

コハクが何か小さく唱えて、その物体をひょいとつまむと脚から離す。


「それ、なに?」


「スライムさ。くくっ」


悪巧み。
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