魔王と王女の物語
コハクが影から出て行くことが想像できなくて…


ラスは声を殺して泣いてしまった。


――バスローブを着てタオルで髪を拭きながら全裸のまま抱き着いて来て泣いているラスを見ると、

他の女はどうでもいいのに、ラスのことになるとつい本気で怒ったり本気で喜んだりしている自身にコハクも気付いていて、


ラスにもバスローブを着せてやって抱き上げると天蓋つきのベッドにゆっくりと下ろしてやった。


「俺のせいってか?」


「…違うよ、コーに秘密を作った私がいけないの。嫌いになるとか絶交とか言わないで、コー…」


――自分のために泣いてくれているラス。


魔王、テンション激上がり。


「今までぜんっぜん泣かなかったのにな。ほらこっち向けって」


「やあ!今私ぶさいくな顔してるから」


「ああん?鼻水出てるぞ、拭いてやるからこっち見ろって」


鼻にティッシュをあててやると、ちーんと鼻を噛んで、ベッドに腰掛けている自分の膝に縋り付いてきた。


「ほんとチビはお子様なのな。俺なしじゃ生きてけないんだよなあ、めんどくせえなあ」


「…そだよ、コーが居ないと生きてけないもん…。ねえコー…私のこと“ラス”って呼んで?」


――今までラスの前では常に“チビ”と言い続けてきたコハクは、

突然女らしい表情でそう言ったラスに不覚にもドキッとさせられて、ふいっと顔を逸らし、頭にタオルを被ると隠した。


「やだね。お前がもうちっと女らしくなったらな」


「“ぼいーん”ってなればいいんでしょ?コー…ごめんね?」


“コーが居ないと生きてけない”という言葉を引き出すことに成功した魔王は、


後でリロイを小突き回して鬱憤を解消してやろうと決意しつつも指をぱちんと鳴らしてピンク色のドレスを出現させて見せた。


「晩餐会はこれ着てけよ。俺のお気に入り」


「コーの?じゃあ着る。もう怒ってない?私のこと…許してくれる?」


上目遣いでうるうる。

天然でいて世間知らずのラスが繰り出した一撃は魔王のハートを射抜いた。


「ぜーんぜん怒ってねえよ。だから友情の証1回な」


「うん、わかった」


結局は元通り。
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