魔王と王女の物語
ラスの食事風景は…

まるでリスが頬袋に食料を溜めこんでいるような態で、

魔王もそれが面白くて可愛くて仕方がなくて、むせたラスの背中を叩いてやりながらワインを差し出した。


「チビ、欲張り過ぎだって」


「だって早く“ぼいーん”ってなりたいんだもん」


「ラス王女は今のままで十分可愛らしいですよ」


フィリアに誉められてにこーっと笑い返していると、リロイが宮廷流儀に則り、ティアラにダンスを申し込んで、部屋の中央へと移動した。


元々男嫌いの気がある娘は常にダンスの申し込みを断ってきていたので、少し驚きながらも音楽に合わせて踊り始めた2人を微笑ましく見守る。


「リロイ、かっこいー」


「ちっ、あいつら目障りだな。チビ、俺らも踊るか?」


「え、でもまだ食べて…」


「踊った後でいいじゃん。食いもんは逃げねえけど、俺の気はすぐに変わるぜ」


「うん、わかった。きゃっ」


――急にコハクがラスを頭上まで抱え上げたと思ったら、室内の蝋燭を数本残して一気に灯りが消えた。


脚の踏み場ができて大満足の魔王はラスを下ろし、腰を抱いて腕を取り、珍しく楽しそうにして笑いながらくるくると縦横無尽にステップを踏む。


「コー、ダンス上手!」


「ダンスも、だろ?アッチも得意だぜ」


「あっちってどっち?」


くつくつと笑い、リロイと肩がぶつかると、わざと脚を踏んづけた。


「つっ」


「へたくそなんだよ、ばーか」


――楽しそうな声を上げているラスと、

こちらもまた魔王の城では見たことのない表情を浮かべているコハク――

フィリアとオーフェンは顔を見合わせて、今後を不安視し、声を潜める。


「ラス王女は魂までも取り憑かれてしまったのかしら?」


「いや、そうは見えないけど…カイも決断するのに悩んだだろうな」


「コー、早いよ、目が回っちゃう!」


「ボインになりたいプリンセスさんよ、身体動かして腹空かせた方がもっと食えるぜ」


「ほんと?じゃあもっと踊る!」


――その頃


ティアラはリロイと踊りながら、


“勇者様”を見つけていた。
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