魔王と王女の物語
「ティアラ…必ず目的を遂行するのですよ」


出発間際、フィリアが確かにそう言ったのが魔王の耳に聴こえていた。

だが素知らぬふりをしてラスを抱っこし、馬の準備をしているリロイに見えないように可愛いお尻を撫でたりして楽しんでいると、


「崩壊したホワイトストーン王国の跡地に、聖石の欠片があるそうです。それを見つけて、カイの魔法剣に」


「お母様、お父様、必ずやり遂げて帰ってまいります」


「ふうん、面白い話してんな。欠片なんかあったかなー」


――ホワイトストーン王国を魔王の城から指先1つで崩壊させたコハクがそううそぶくと、

当時の王国の統治者とも誼があったフィリアたちが魔王を睨みつけて、

話の流れが読めていないラスが皆の険悪な表情と、意地悪をする前の笑い方をしているコハクの両目を手で塞いだ。


「こらチビ、見えないだろ」


「コー、悪戯は駄目。今度は欠片捜し?楽しそうだね」


「ティアラ王女、お手を」


リロイから手を取られて甲にキスをされると、恥ずかしさのあまり手を振り払いながら馬車に乗り込むティアラに続き、ラスもコハクの腕から降りて駆けこむ。


…コハクとオーフェン、フィリアだけが外に残り、魔王がにやっと笑った。


「俺をやり込める算段をしてるみたいだがそう簡単にはやられねえぞ。だが…」


声を潜め、フィリアの顎を取って上向かせて視線を合わせながらキスをする時のように唇の音を鳴らし、ぐっと顔を近付けた。


「ラスは俺の花嫁になる。その邪魔をするならお前たち全員皆殺しだ。お前の娘は弄んでぼろぼろにして城から追い出してやる」


――凶悪すぎるほどの絶大な魔力を保持したまま、カイから討たれた魔王コハク――


フィリアは今でも疑問があった。

コハク優勢の戦いだったのに、最期は呆気なく討たれたことが。


「…望んでいるの?」


「さあな。1度死んでみたかっただけかもな」


自ら不死の呪いを身体にかけて永遠の者になったコハク。


今望んでいるのは、純粋にラスを手に入れることのみ。


その純粋さが、恐ろしい。


「じゃあな、もう会うことはないだろう」


不吉な別れの言葉――
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