魔王と王女の物語
馬車が走り出し、その間ずっとティアラは前方を注意しながら前を行くリロイの後ろ姿ばかりを見つめている。


「ねえティアラったら。私の話聞いてる?」


「え…あ…、ごめんなさい」


「“勇者様”ねえ…」


「!黙りなさい!」


鉤爪状に曲がった白い樫の杖を鼻先に突きつけたが一向にコハクは反省した色がなく、ラスの膝枕を楽しんで、バカップルのようにずっと指を絡めて笑い合っている。


「勇者様!?ティアラも捜してるの?それが…リロイなの…?」


なんとなく言葉が尻すぼみして、コハクが敏感にそれに気付いてラスの顔を睨みつけた。


「別に小僧がティアラの“勇者様”だっていいだろ?お前の“勇者様”はこの俺!」


「どっちかっていったら…リロイの方が王子様で勇者様っぽいんだけど」


「…ふん、もう知らね。ベルル」


「はーい!」


漆黒のマントの中から黒妖精のベルルがひょこっと出てきて一瞬ティアラが身構えたが、


「大きくなって俺の枕になれよ」


「…コー…」


「なんだよ用もないのに呼ぶんじゃねえよ」


大きくなったベルルは大人っぽくて色っぽくて、何もかもが負けていて、

悔しくなって、成り行きを見守っているティアラの側に移動すると腕に抱き着いた。


「ラス…」


「コーって時々意地悪するの。リロイのこと言うとすぐ怒るし…コー、ごめんなさい。まだ怒る?」


ベルルが大きくなろうとする寸前に小さな身体を捕まえてまたマントの中に押し込めた。


「コハク様!?」


「黙ってそこ入っとけ。…で?誰が王子様で勇者様っぽくないって?」


「コーの怒りんぼ。リロイはお父様に似てるから勇者様に見えるだけだもん」


「じゃあこっち来い。俺の枕にしてやるよ」


「うん」


――そんな2人を見て、ラスは魔王のいいように操られていると思った。


「…今だけよ」


ものすごく小さな声で呟いたはずなのに、

魔王の赤く吊った瞳がにやりと笑んだ。


どきっとして、

母のフィリアに“コハクの美貌に騙されるな”とアドバイスされたこともあり、押し黙る。


魔王、最強なり。
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