魔王と王女の物語
「お姫様、パンを下さい」


姫が眠っているという塔を眺めながらパンを食べていると、ラスの足元から声がした。


「あ…猫が長靴を履いてる…」


「お姫様、どうかパンを」


鳥の羽のついた粋な帽子を被り、長靴を履き、腰には小さな剣を差していて、

けれど本当にお腹が空いているのかくたくたになって座り込み、うなだれた。


「コー、この子は魔物?」


「そうだけど悪いやつじゃないな。パン分けてやれよ、きっといいことあるぜ」


ラスはパンを小さく切ってやって、ワインの入った革袋も猫の騎士にあげた。


「こんなにくれるんですか?僕はぺロと言います。とあるお姫様の結婚式を見てその後旅をしていたのですが食料が尽きてしまって…」


「そうなんだね!これ位あれば旅を続けれる?」


ハンカチに切ったパンやハムを詰めてやって手渡すと、感激したペロはラスに抱き着いた。

ふかふかの感触に思わず反射的に抱きしめていると…


「おい、そこの猫…俺のチビに触んな」


…相変らず心の狭い魔王がペロの尻尾をぎゅっとつねり、飛び上がる。


「コー、駄目!」


「あ、あなたは……魔王様…?」


「だったらどうなんだよ。早く離れろ。でないと鍋に入れてぐつぐつ煮込んでスープにして食うぞ」


慌ててペロがラスから離れて額をぬぐうような仕草を見せてラスやティアラを微笑ませる。


「お礼にいいことを教えましょう。あそこの塔で眠ってる姫……寝たふりですよ」


「え!?寝たふり!?」


――せっかくロマンチックな物語だったのに、一気に底の浅い物語になってしまい、ラスとティアラの肩が落ちたが、


魔王は大爆笑だった。


「おもしれえな、チビ、ちょっと見に行こうぜ」


「じゃあ僕はこれで。魔王様…あなた僕たちが知ってる魔王様とはだいぶ違いますね。じゃあまたどこかでお会いしましょう!」


手を振りながらペロが森の奥に消えて行き、

“だいぶ違う”と言われたコハクはちょっと拗ねた表情になってラスを抱っこし、

リロイが絨毯を巻いて、コハクがそれをまたラスの影に押し込めた。


姫が寝たふり。

魔王がにたりと笑う。
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