愛されたかった悪女
「こんな本、出すの止めてください!隼人さんを愛しているんでしょう?彼を苦しめるなんて!」


「ええ、愛しているわ 貴方も彼を愛しているのよね?それほど愛しているのならどんな犠牲も厭わないわよね?」


「犠牲?」


「本が世間に出たら、彼の人生はどうなってしまうかしら?有名モデルを捨てたレッテルを貼られて仕事がうまく行く?ふふふ、当分は無理ね?」


「……別れろって……ことですか?」


彼女はショックを受けたみたいに茫然となった。


「政略結婚で結婚したんだから簡単でしょう?貴方はたった1ヶ月位しか彼と過ごしていないのだから お金が欲しいのなら、私があげるわ だから別れて日本へ帰って」


「……」


「この本を読めば私達の歩んだ歳月が分かるわ どうぞお部屋に持って帰って ただし、ハヤトにばれないようにね?ばれた場合、すぐに世界中の書店に置かれることになるわ」


そう言うと、テーブルに置かれた英語版の1冊だけバッグの中にしまい立ち上がった。


「今日はせいぜい楽しめばいいわ ディナークルーズだなんて、ロマンチックよね 私達も仕事の合間を見て、よくフロリダで楽しんだわ 極上のシャンパンと蕩けそうになるくらいの快楽を分かち合ったの」


ハヤトとクルージングをする時は、いつも仲間も一緒だった。


ロマンチックな事なんてほんの少しだけ。この子に嫉妬させたくてそう言っていた。



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