魔女の悪戯

ソファに座って細い足を組み、忠純を睨む王女。


忠純は黙って頭を少し下げている。


上品な装飾が施された部屋に、重苦しい空気が漂った。


「はぁ…っ」


その沈黙を破ったのは、王女のため息だった。


「レオ。
私、知ってるんだからね。
カルボーロの王子と結婚の話が進んでること。
でも、どうせみんな私が嫌がると思って貴方を寄越したんでしょ?」


王女は真っすぐな視線をそらそうともしない。


──聡い。


忠純はそう感じ取った。


ラウロ王子は我が儘王女などと言っていたが、柚姫以上の才覚が王女にはある。


「縁談は、悪いことばかりではありませぬでしょう。」


「そうかしら?
狭い檻の中に閉じ込められるのと一緒よ。
見てきたもの。
お母様も、お父様の他の側室も、…正妃様も。
だから、結婚なんて絶対に、い、や!!!」


──奥向きとは、どこの世界も変わらぬのだな…。


柚姫も王女と同じく、側室の産んだ姫だった。


一の若君の母は同じ母君だったが、二の若君の母は、風見篤景の正室の公家の姫だった。


守役をしてきたから分かる。


お方様と奥方様の冷戦を。


なんだか説得する自信が無くなってきた忠純。


しかし、それでは駄目だ。


忠純は必死で言葉を探した。


「お相手は兄君の御友人とお伺い致しました。
なれば、そのようなご心配も要らぬのではござりませぬか?」


「そう、やっぱりカイル様なのね。」


「お互いに顔見知りならば、余計にご安心でしょうに。」


「嫌っ!!
カイル様なんてぜーったいに、嫌っ!!!」


──ええ!?


「如何なる理由にございます!?
王子もその方なら安心と…」


「お兄様はね!
そういうでしょうよ。
カイル様の事が大好きですもの。
でも、私は嫌なの!!」


「しかしっ!」


「嫌っ!」


──はぁ。


忠純は心でため息をついた。


この女(ひと)たしかに我が儘王女だ…。


< 36 / 73 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop