魔女の悪戯
ソファに座って細い足を組み、忠純を睨む王女。
忠純は黙って頭を少し下げている。
上品な装飾が施された部屋に、重苦しい空気が漂った。
「はぁ…っ」
その沈黙を破ったのは、王女のため息だった。
「レオ。
私、知ってるんだからね。
カルボーロの王子と結婚の話が進んでること。
でも、どうせみんな私が嫌がると思って貴方を寄越したんでしょ?」
王女は真っすぐな視線をそらそうともしない。
──聡い。
忠純はそう感じ取った。
ラウロ王子は我が儘王女などと言っていたが、柚姫以上の才覚が王女にはある。
「縁談は、悪いことばかりではありませぬでしょう。」
「そうかしら?
狭い檻の中に閉じ込められるのと一緒よ。
見てきたもの。
お母様も、お父様の他の側室も、…正妃様も。
だから、結婚なんて絶対に、い、や!!!」
──奥向きとは、どこの世界も変わらぬのだな…。
柚姫も王女と同じく、側室の産んだ姫だった。
一の若君の母は同じ母君だったが、二の若君の母は、風見篤景の正室の公家の姫だった。
守役をしてきたから分かる。
お方様と奥方様の冷戦を。
なんだか説得する自信が無くなってきた忠純。
しかし、それでは駄目だ。
忠純は必死で言葉を探した。
「お相手は兄君の御友人とお伺い致しました。
なれば、そのようなご心配も要らぬのではござりませぬか?」
「そう、やっぱりカイル様なのね。」
「お互いに顔見知りならば、余計にご安心でしょうに。」
「嫌っ!!
カイル様なんてぜーったいに、嫌っ!!!」
──ええ!?
「如何なる理由にございます!?
王子もその方なら安心と…」
「お兄様はね!
そういうでしょうよ。
カイル様の事が大好きですもの。
でも、私は嫌なの!!」
「しかしっ!」
「嫌っ!」
──はぁ。
忠純は心でため息をついた。
この女(ひと)たしかに我が儘王女だ…。