魔女の悪戯
岩佐城
一方、一夜明けた岩佐城も大忙しだった。
その日の昼、柚姫が守槻城に出発するからである。
その道中を護衛するのが、忠純の、柚姫の守役としての、最後の勤めだった。
レオは、うまいことごまかしてお殿様の小姓に、城下にある忠純の屋敷まで連れていってもらい、一夜を明かした。
忠純の家は、元勘定奉行で今は隠居中の父上と、母上、妹の四人家族。
妹は、来月に祝言を挙げることが決まっていた。
「忠純、ちと参れ。」
レオは、忠純の父に呼ばれ、奥の間に入った。
そこに、二人で腰を下ろす。
「いよいよ、明日じゃの。」
「はい。」
「幼き頃よりお仕え申し上げた御方の輿入れは、さぞ寂しかろうが、そなたは我が家の家格にそぐわぬほどの大役を仰せつかったのじゃ。
ゆめゆめ、気を抜くでないぞ。」
「はい。」
──そんな事、本物に言ってくれ…。
「それでじゃ、忠純。
そなたに渡さねばならぬ物がある。
これじゃ。」
忠純父がそういうと、奉公人が大きな箱を持って来た。
「明日の最後のお勤めには、これを着よ。」
中を見ると、中には兜が入っていた。
「そなたは、柚姫様のお輿入れ行列の先頭であろう。
故に、そなたに我が家伝来のこれを渡す。」
忠純父が渡したもの、それは、杉松家伝来の、赤糸縅紅葉紋二枚胴具足だった。
「最後の勤め、しっかりと励みます。」
レオは適当に返事をし、この日は眠りについたのだった。