監禁恋情
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紀一は、久しぶりに会った
当時の看護婦長、厚子に微笑んだ。

「お久しぶりです。婦長。」

「先生…申し訳ありません…!」

厚子は、泣きながら深々と頭を下げた。

紀一は、厚子の肩にそっと手をおいた。

「私は…愛ちゃんを最後に救うことが出来ませんでした…手紙も…あなたに渡すのがこんなに遅れてしまった…」

「どうか、自分を責めないで下さい。
愛を救えなかったのは俺も同じです。
それに手紙は、ちゃんと俺に届きました。それでいいんです。
あなたには感謝しています。」

さくらは、胸がいっぱいになりながら
二人のやりとりを見つめていた。

これが、本当の紀一なのだ。

この優しく、穏やかな青年が紀一なのだ。
彼はやっと自分を取り戻せたのだ。

「お身体は…、大丈夫ですか?」

厚子が、心配そうに紀一を見た。
紀一はずっと点滴で栄養補給をしていたので、いつもより随分健康そうに見えた。

「ええ、もう、ちゃんと食べますよ。
それについても、ありがとうございました。」

「お礼なら、さくらちゃんに…。」

厚子がこちら見たので、
少し戸惑って首を振った。
紀一は優しく微笑んで、さくらの髪を撫でた。

「…これから、どうなさるのですか?」

厚子が、不安げに聞いた。

そう、まだ、2人を監禁していた
紀一の兄や両親の問題が残っている。
さくらも不安になって、紀一を見上げた。

「俺は逃げも隠れもしません。
家族とはきちんと向き合います。
それが今まで逃げ続けてきた俺の役目です。」

凜としてそう言う紀一は、本当に逞しく、さくらはただ息を飲んで見とれた。
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