spiral

「で、で……できない」

息が切れてしまう。

「そんなんじゃ、赤ちゃんにいい酸素を上げられないでしょ。赤ちゃんもがんばってるんだから、お母さんががんばらないでどうするの」

なかなか押し出せないあたしのお腹に、小太りな看護師さんが乗っかってリズムに合わせてお腹を押した。

「赤ちゃん、つぶれ……ちゃ、っう」

グググーッとお腹の中に力を込める。下りて行くたびに、腰にズンと響く痛み。

(ママ……、ママ……)

凌平さんじゃなく、心の中でママを呼ぶ。

今、あたしは体験してるんだ。ママだけ知ってて、あたしが知らなかった痛みを。

チラッと見えた時計。もうすぐで明日になってしまう。

(嫌だ。今日がいいんだ。今日、産まれて!)

心の中で赤ちゃんにお願いする。今日は特別な日なの。お願い、出てきてと。

涙があふれてくる。酸素が足りない。

「ほら、泣いてると赤ちゃんも辛いのよ」

わかってるもんと涙をぬぐう。

「いち、に……はいっ、いきんで」

息を詰め、腰の方の痛みを逃そうと意識した瞬間だった。

カクンと腰が抜けたのかと思った。痛みが一瞬でいなくなった。

助産婦さんの動きで、赤ちゃんが産まれたことが分かった。

(あれ?泣き声がしない)

ドキンとしたのは瞬きの間だけだった。

「ふ……あぁーーーーん」

ここにいるよと言わんばかりの泣き声。初めての主張だよね、これって。

「はい、可愛い男の子よ」

きれいに拭かれ、わずかの逢瀬のようにその小さな手に触れた。

手のひらに指を置くと、キュッと握ってくる小さなぬくもり。

「……握手だ」

涙があふれた。

今、ママになったんだ。あたし。ママと同じ、母親になれた。

あんなに腹が立った助産婦さんへの憎まれ口もなかったように、幸せだけに満たされる。

「ママ。これでやっとスタートに立てたよ」

愛しい人と同じ誕生日に産まれた、二人の赤ちゃん。

可愛い子供の顔をぼやけた視界でみつめ、聞こえない言葉を呟いた。

 その時は、意外と早く来た。

「寝てていいよ、着いたら起こすから」

凌平さんの優しさに甘えて、あたしは助手席で目を瞑る。

最近寝不足で、頭が働かない。ただ眠たい。それだけが欲求になる。

うとうとしかかっても、ほんのちょっとのぐずった声で目が覚める。常に緊張してるから疲れる。

「大丈夫、まだ寝てるから。気にしないでマナも寝なよ」

苦笑する凌平さん。あたしが張り詰めた状態になってるのを知ってるから。

かすかに聞こえるエンジン音。揺れる車の振動。いつもの心地いい空間なのにね。

自分がこんな状態になって、初めて知った苦痛。

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