spiral

「うん、ごめんね」

いまだに謝る癖が抜けない。

「そういう時は、ありがとうでいいんだよ」

お兄ちゃんが言うことと同じことを言われる。これもあの頃から変わらない。変えられない。

パタンとドアを閉じ、深呼吸をしてから封筒を開けた。

 数冊のノートと、本。それだけ。

「あ、この文字」

懐かしい文字に、涙が出そうだった。

『秋は元気かな。先日香代さんの荷物を整理していたら出てきたものがあった。多分、マナに必要な内容だと思ったんだ。みてごらん』

あたしの命をつないだ廃棄弁当。それが入ったレジ袋にはいつも、他愛ないことが書かれたメモがあった。

あたしを生かし、苦しめもしたメモ。その文字の懐かしさに涙腺が緩む。

「お父さん……」

こぼれかけた涙を指先で拭い、そのノートの一冊を開こうとして落とした。

「……え?コレって、なに?」

ノートの右側から開かれ、その最初のページが現れた。

「なにこれ、グチャグチャじゃない」

乱暴に書かれた無数の線。その下には文字。それを消すかのような線が、ノートいっぱいに書かれていた。

そのノートをめくっていく。めくっていくたびに、その線の本数が減っていく。

「このノートって、もしかして」

そうだ、コレ。育児ノートだ。しかもあたしの時のだ、マナが……って書いてある。

どんどん前の方へと時間をさかのぼるようにめくり続ける。

ドクンドクンと心音が早くなっていく。見慣れたママの丸文字。懐かしい文字。

乱暴に線で消された文字は、丸文字じゃなく書きなぐったような文字だった。

前に行くに従って、見慣れた文字へと戻っていく。

『名前は決めてた名前にした。愛とかいて、マナ。大きくなって、喜んでくれるといいな』

ひときわ大きく心臓が跳ねた。

あの時ママが話していたことだ。でもこの文字の感じだと、産まれたことを喜んでくれている気さえする。

一番前から、今度はまたページをめくっていく。

産まれた後は、赤ちゃんってこんな感じなのかという感想めいたもの。

それから離乳開始時期には、まだあのママの様子を表わすようなことは書かれていない。

上手くいかない離乳への焦りもなくて、早く一緒の物が食べられたらいいのに程度の文章。

それが進むごとに、文字も気持ちも変化していくのが目に見える。

『スプーンを振り回す。床にちらばっていく。拾い集めているのが、バカバカしいや』

手が止まらない。何かを探している感覚に戸惑いはすれど、止める気になれない。

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