BLack†NOBLE


 観光客がその被害に遭うのは希でないばかりか、ここに昔から住む住人ですら恐れている場所や通りもある。


 住宅街を車で進んでいくと、どの建物も窓に鉄格子が施されているのが当たり前だ。

 鍵をかけていようが、ガラスの窓など簡単に割られてしまうからだ。

 この街では、ガラスが割られようが、悲鳴が聞こえようが、発砲音が聞こえようが誰も警察には通報してくれない。むしろ日常的によく聞く音だろう。



 それくらいに治安が悪く美しい。


 こんな真っ赤な高級車で街を走れば、否応なしにそういったことに通ずる奴等が動く。

 昨夜のような事態はできれば避けたい。


 朝から道端に座り込み、如何わしい目線を送る男たちの前を通過する。


『アリシア、起きろ! このアパートか?』


 指定の場所は、古めかしいアパートだ。かなり古いレンガは所々かけている。入り口は、アンティーク彫の植物を模した鉄の門。中には小さなパティオ(中庭)が見える。


 しかし、蔵人がこんな場所に女を囲っているとは……意外だな。


 アリシアは、ダルそうに『うん……ここ、今門を開けてくる』と言い、車から降りた。

 ランボルギーニが停まり、中から背中の大きく開いたドレス姿の女が降りてきたことに、道端に座り込んだ男たちは言葉を失っているようだ。


 懐に手を忍ばせて銃の安全装置を外す。


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