BLack†NOBLE



 ガラスの町は、観光地としても有名だ。

 古代ガラスの芸術に、ビザンチン様式のサンティ・マリア・エ・ドナート教会、それに大小様々なガラス工房があり夜は比較的ひっそりとしていた。



 このクルーズ船も、これが本日の最終便。


 以降、明日の朝まで孤島となる。




「夕焼けが綺麗ね、あの影はサンマルコ寺院かしら?」


「そうです。私達が、婚約を誓った場所です」


 
 風になびく、お嬢様の栗色の柔らかな髪を耳にかけると……その頬に触れた。



「寒くないですか?」


「ええ、大丈夫。ふふふ、柏原って本当に心配性ね」


 心配性は貴女限定だ。

 俺は、ここまで人を気づかい生きてきた記憶なんてないのだから……




「心配ですよ。貴女は、予測不能ですから」


「あら? それ褒め言葉よね?」


 可愛らしく首を傾げると、また髪が風になびく。



「もちろん、褒め言葉ですよ」



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