BLack†NOBLE
肩を押さえてため息が出た。気持ちが焦るほど遠回りしている気がする。
それに本当に蔵人はローザを溺愛してるのか? あんな女を信じてついてきたけど、大丈夫なんだろうか?
車内から、アリシアが姿勢よくピンヒールをならして店の中へ入っていくのが見えた。
大きなガラス窓から店内の混雑ぶりがうかがえる。
彼女はいつの間にか、大きめのサングラスをして顔を隠しているようだが……その存在感とブロンドの髪は、とても目立っている。
スフォリアテッレか……
お嬢様のティータイムに添えたら、とても喜ぶだろう。
シルバー製のナイフとフォークを用意して大きめのプレートに粉砂糖を振りかけて差し出せば、彼女はその可愛らしい頬を綻ばせる。
紅茶は、甘さを控えてシンプルな味わいのものが好ましい。
アーモンドクリームの口直しには、やはりダージリンだろうか。
無意識に、車を降りて店内に足を踏み入れていた。
『瑠威も、食べるの? どの味がいい?』
『いや……俺はいい』
アリシアは、不思議そうに俺を見つめた。
重度の職業病だ。
お嬢様の為ならば、先ずは体が先に動いてしまう。
それに今は現金を持っていない。
俺は、何をしようとしたのだろう?