BLack†NOBLE

『ローザに興味を持つなと言っただろ』


『でも、私以外の女にクロードが愛してるって言うのが嫌なんだもん』



 店主がせかせかとスフォリアテッレをバスケットに詰めている間に、賑わっていた客は虫を蹴散らすようにいなくなった。


 照明も落ちて崩れかけの廃墟のような建物で、暢気にスフォリアテッレを買う客は、蔵人だけだろう。


『ローザに頼んで、俺から茉莉果を奪い返そうとしたわけだ……』


 口に手を当ててククッと笑う蔵人。

 やっぱり昨夜撃ち殺しておけば良かった……頭にくる奴だ……



『お待たせいたしました……』


 店主はバスケットに大量のスフォリアテッレを詰め込み、俺たちに差し出す。

 それから蔵人が置いた、多額の修繕費を握り締める。


『今日はもう店仕舞いです』


『そうするといい』

 蔵人は店主に、ニコリと微笑む。女性店主は『まぁ……』と声をあげて頬を赤らめた。



 一つのバスケットはアリシアに手渡され『ありがとうクロード』と暢気な声が上がる。



『もう一つのバスケットは、フィレンツェの茉莉果に届けろ。俺からのプレゼントだと伝えてくれ』


 バスケットはレイジから違う男へと渡され、その男は蔵人に対して深く一礼をして店を出た。




『待て!』

 その男は大切そうにバスケットを抱えて振り返る。


『いいから行け』

 蔵人の指示は絶対だ。男は、そのまま店の外に出ていってしまった。



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